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公園に到着すると、娘は私の手のひらから離れて一直線に走っていく。
「あった!おっきな水たまり!」
水たまりの前へ着くと、娘が頭の上を両手上げて手招きしている。
額を流れる汗を水玉のハンカチで拭い、荒れた呼吸を整えるように深呼吸を繰り返しながら娘のもとへ歩み寄る。
そんな私を待っていることができなくなった娘は、水たまりに向かって力強くジャンプする。両足の着地と同時に虹色に光るガラスの破片のような水しぶきが舞い上がる。
それから何度も娘は水たまりの上で無邪気に飛び跳ねた。
その姿はステージに立つアイドルのようにはつらつとして可愛かった。
その後、指で地面を掘って水たまりを大きくしたり、泥団子を作ろうと奮闘したり・・・様々な遊びを2人でした。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、オレンジの空をカラスたちが鳴き声を上げながら帰って行く時間となった。
「そろそろ帰ろうか!」
「え~もう・・・」
娘は遊び足りないと言わんばかりの表情を浮かべる。
「うーん・・・もう暗くなっちゃうからね。明日!お父さんも連れて一緒に来ようね」
私の説得に娘が満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、明日。また水たまりで遊ぶ!!」
その言葉に私は一瞬顔を引きつった。
しかし、すぐに笑顔を作り直し、娘にやさしく告げる。
「うーん、明日には水たまりは無くなっちゃうかな~」
「えー、もっと水たまりで遊びたい!」
泥の半纏が目立つ黄色の長靴で地団駄を踏む娘。
今にも泣きだしそうな娘。
そんな娘に私は咄嗟に言葉を放った。
「よし、じゃあ逆さまのてるてる坊主を作ろう!」
「てるてる坊主?なんで?」
「てるてる坊主は逆さまに吊るすとね。雨になるって言われてるんだよ!」
「そうなんだ!あ、でも・・・でも、雨降ったら明日遊べない・・・」
「じゃあ、月曜日!幼稚園が終わったら遊ぼ!もし、月曜日が雨なら火曜日に公園に来よう!ね!!」
かなり無理がある約束を娘に提案する。
ダメか。そう思ったが、娘は向日葵のように明るい笑顔を浮かべる。
「うん。わかった!」
公園の水道で手の泥を洗い流し、小さな手を取り公園の入り口へ向かう。
途中で娘が後ろを振り返り「バイバイ」と水たまりに手を振る。
そして、娘は天を見上げて高らかに声を上げる。
「雨よ!降れ~~~!」
私も続いて天に願う。
私と娘は2人も花火がはじけたように笑い合いながら歩き出した。
私たちの笑い声。娘の中まで濡れた長靴が発する一定間隔の音。その音に呼応するように響くカエルたちの雨乞いが河川敷に響き渡っていた。
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