0人が本棚に入れています
本棚に追加
「お母さん晴れたよ!散歩に行こーよぉ~」
「は~い。洗濯物干すからちょっと待っていてね」
昨日の空を覆っていた暗雲はどこへやら。
太陽が青空のステージ中央で輝いている。
私は洗濯物がいっぱいに詰められた籠を持って、階段を1段1段慎重に上っていく。その後ろを娘が「早く、早く・・・」と何度も急かしてくる。
「じゃあ、洗濯ものを干すの手伝ってくれるかな?」
娘の陽気な「うん」と言う返事が家中を響き渡る。
ベランダに繋がる窓を開くと、少し湿り気を含んだ熱風が寝室の中へと流れ込んでくる。
娘が衣類とハンガーを家の中から差し出す。それを私が物干し竿に等間隔に干していく。今日も娘が手伝ってくれたため、洗濯ものを干す時間は一瞬で終了する。
「よし、じゃあ行こうか!」
私の号令を受けるや否や、娘はにっこり笑みを浮かべて玄関へと駆け出して行った。
「おっきな水たまりはあるかな~」
「きっとおっきい水たまりがあるよ~」
「本当!」
太陽に負けないくらい輝かしい笑顔を浮かべる娘に、私は「うん!」と陽気に頷いた。
5月後半の晴れた昼頃。
今日はいつもの散歩ではない。
子供向け番組の中で、水たまりで遊ぶ自分と年の差のない子供たちを見た娘。
その様子に触発され、雨上がりの今日は水たまりで遊ぶために家を出た。
新品の黄色の長靴を履いた娘と手を繋いで歩く河川敷の歩行者専用道路。休日という事もあり、ジョギングをしているおじさんや野球のユニフォームを身に纏った中学生の集団などが道を行き交う。
そんな人たちの喧騒に包まれながら、娘と2人で水たまりを探す。
けれど、娘が求める大きな水たまりはなかなか見つからない。
「もう、公園だよ・・・」
「大丈夫、公園の中にはきっとあるよ!」
「本当?」
私は娘に不安を与えないように必死に笑顔を作った。すると、娘は「早く!」
と言って長靴の底面のゴムがこすれる鈍い音を鳴らしながら走り出す。その手に釣られて私も年甲斐もなく走り出した。まるで、制服を身に纏っていたあの頃に戻った時のような解放感に包まれて。
最初のコメントを投稿しよう!