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待って、と美来は心の中でつぶやいた。
まだ、もう少しこの光景を目に焼き付けていたい。
これで終わりなんてやっぱり嫌だ。
けれども、スマホの振動は止まない。もう後戻りはできないと彼女に告げるようだった。
美来は仕方なく荷物ごと席を離れた。ライブ会場の中は携帯電話の使用が禁止されている。非常口の外に出て、美来は彼に詫びのメールをしようとした。
計画を中止したい。
言葉を考えながらスマホを起動すると、アプリの受信箱にいくつかメッセージが溜まっていることに気づいた。
『美来ちゃん、ごめん』
『やっぱりおれ、美来ちゃんのこと死なせたくないから、古城湊のところに連れて行けない』
それを見て、美来は一瞬ホッとした。
心変わりをしたことを責められるかもしれないと思ったが、この流れなら言えそうだと思ったのだ。
しかし、次のメッセージを見た時、彼女の表情がこわばった。
『美来ちゃんを裏切ってごめん。何の役にも立てなくてごめん。わがままばっかり言ってごめん。だから、お詫びにおれが美来ちゃんの代わりに逝く』
「待って。逝くって何……」
美来は慌ててメッセージを返した。
『何考えてるの?』
メッセージが少し遅れて返ってくる。
『古城湊に、美来ちゃんの気持ちを伝えに行く。あいつの目の前でおれが美来ちゃんの代わりに死ぬから、それで許して』
死という文字がはっきりと浮かんで見えて、美来の呼吸が激しく乱れた。
『やめてよ……何でそんなことするの⁉︎』
『美来ちゃんのことが好きだから』
当然のような口ぶりで彼は言う。
『こんなおれでも、美来ちゃんのためにできることがあるなら命なんて惜しくないよ』
『美来ちゃんには生きていてほしい』
『美来ちゃんはおれの推しだから』
『美来ちゃんのおかげでおれは生きてこれたから』
『今までありがとう。ずっと大好きだよ』
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