私のアイドル

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「……そうだね。ごめん」  湊は悲しそうにうつむいた。 「だけど、これだけは聞きたい。樋口さんは君がこんなことをするのを望んでない。絶対にやめてって言うはずだ。君はその言葉も無視するの?」 「それは……」  マスクの彼の勢いが少し弱まった。 「分かってます。これは僕のエゴだって。それでも、僕は……」 「湊!」  その時、私たちの後ろから松浦さんの声がした。 「どないした、何かあったんか⁉︎ 次の曲が始まらへんって上のみんなザワついとるけど──って、お前まだ着替えとらへんやないかい! ほんまに何しとん!」 「まっつん! ごめん、今それどころじゃない」 「は?」  さらに文句を言おうとした松浦さんは、近くまで来てようやく私が拘束されていることに気がついた。 「何いっ⁉︎ ど、ど、どういうこっちゃ! 誰やねん、お前!」 「……関西弁って強いね。一気に緊張感なくなる」  湊は少しだけ笑った。 「残念だけど、こういうことだからプランBだ」 「あ、ああ……」  松浦さんはスマホを取り出した。すかさずマスクの男が私にカッターを押し付ける。 「動かないでください! この人がどうなってもいいんですか⁉︎」 「ま、待て! ちょっと電話するだけや! 警察とかやない、上の音響チームに頼みたいことがあんねん! そんだけや、堪忍して!」 「スピーカーで話してください」  松浦さんが言った相手と違う人が出たら即座に切りつけるという意味だろう。松浦さんは言われた通り、スピーカーにして通話を始めた。 「俺や。頼んどいた例のやつ、今すぐ流して。頼む」  会話は短かった。それだけで通じたようだ。  プランBというのはおそらく私が廊下で立ち聞きした、湊の代わりにステージに立てる人の楽曲を流すということだろう。でも、曲の準備だけでその人本人には連絡しないのは何故なんだろう。もうステージ上にいる人なんだろうか。 「……これで心置きなく君と話ができるよ」  ステージの心配がなくなったせいか、湊はスッキリした顔をしていた。 「それで……君は俺にどうしてほしいの……?」
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