私のアイドル

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 この声の主がもうこの世にいないなんて信じられなかった。  彼の歌は私の体に鳥肌を立たせ、自然と熱い涙を引き出させた。  ……こんなに綺麗な声だったのに。  みんなが泣き出してしまったのを見て戸惑っているマスクの男に、私は言った。 「あの声の人は、本当だったら今頃INFINITYとして上の舞台に立っていたかもしれない人でした。でも、喉の病にかかって……亡くなってしまったんです」  でも、彼の歌は音源に残っていた。  それを湊が大事に取っておいたから、今ステージの上で流れている。  柊さんはようやく夢だったステージに立てたのだ。  時を超えて、INFINITYの大切なメンバーの一人として。   「俺たちの命は永遠じゃない」  独り言のように湊が呟いた。 「理不尽に奪われたり、自分から消そうとしたりすれば簡単に失われてしまう。だけど簡単に無くならないものもある。それは、愛してくれた人たちの記憶だ」  マスクの男はじっと湊を見つめた。 「愛した記憶は消えない。愛されたことも、ずっと消えない。思い続けてくれる人がいる限りいつまでも生き続ける。……彼のように」  降り注ぐ歌声は今もみんなの胸を震わせながら響いている。  彼の歌声が湊の言葉を証明している。   「君は自分のことを消えてもいいと言ったけど、君に愛されたことは樋口さんの記憶に残る。君みたいに自分を思い続けてくれるファンが消えたら樋口さんは悲しむよ。君たちファンは、アイドルにとって宝なんだ」 「僕が……美来ちゃんの……宝?」  湊は大きく頷く。 「君みたいなファンがいる限り、樋口さんはアイドルだよ。誰が何と言おうと、君がそう呼べば彼女はそうであり続ける。ファンがいれば、アイドルは死なない。彼女もいつかまた輝く舞台に立てるかもしれないのに──君はそれを見なくてもいいの?」  マスクの男の手が震え始めた。 「本当ですか……?」  彼の手が私から離れる。 「僕はまた美来ちゃんのパフォーマンスを見ることができますか……?」 「君が望んでいるのは、それなんだろ? だったら本人にそう伝えるべきだ。俺の言葉なんか伝えたって彼女には響かない。彼女を愛している君の、その本当の言葉が彼女には必要なんだ」  私の手の中でスマートフォンがブルブル振動していた。  さっきからずっと誰かが私に電話をかけてきていることには気づいていたけど、拘束されていて確認できなかった。今、やっと画面を見て、私はホッとした。 「美来さんからの、電話です」  私は泣きながらマスクの男にスマホを渡した。 「あなたの想いを、伝えてあげてください」
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