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彼は膝をつき、泣き崩れた。その手からカッターナイフが落ちて床に転がったのを松浦さんが拾う。
そんな松浦さんのスマホが鳴った。
「美来が見つかったそうや。警備室に連れてくけどええかって」
「いや。樋口さんは今日、ちゃんとチケットを購入して観に来てくれたファンだ。ライブが終わるまではちゃんとした席で観ていってほしい。VIP席に案内してあげて。その方が監視も楽でしょ」
「そやな」
松浦さんは湊の神対応にニヤッと笑った。
「あんたも来るか。美来と一緒にライブ観たらええ」
「えっ……」
マスクを付け直した彼は湊と松浦さんを交互に見て、涙を光らせながら感謝するように頭を下げた。
松浦さんと彼が去っていく。
胸が震える光景を目に焼き付けていると、誰かが私の肩を叩いた。
「さあ、そろそろステージに戻らないと。柊ばかりにいい格好させてられないからね」
振り向くと、湊が輝くような笑みを浮かべていた。
「着替え手伝って」
「はっ、はい!」
湊が私の目の前でシャツを脱いで上半身裸になる。ドキドキしながらみんなで衣装を渡していくうちに、みるみる彼は白いタキシード風の衣装を身に纏った素敵な王子様に変身した。
彼の髪に最後に私が少しだけ櫛を入れる。
真正面で湊は私だけを見つめて微笑んだ。
「ありがとう、ひより。見ててね、俺のこと」
「はい」
私も微笑み返す。
「ずっと見てます」
私はもう湊のファニーだ
アイドルの古城湊に恋してる。
湊は私の手を取って王子様のようにキスをした。
その数秒後、彼はステージの上で45000人に愛された。
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