白黒の恋人

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僕は、視線を動かした。 ベッドの横には僕の腰ぐらいの低い本棚があった。 彼女と僕の共通点は、もしかしたら読書だったのかもしれない。そう考えながら、僕は本棚へ近づく。 「……」 本棚には、僕の好きな本ばかりが並んでいた。やはり、趣味が同じで気が合ったのだろうか。 僕は、何気なく一冊を取り出す。 パラパラとめくっていくと一番最後のページに二つ折りにした紙が挟んであった。 「……、感想?」 その紙には本の感想がきれいな文字で綴られている。 ここが良かったとか、ここに感動したとか。 そして一番最後に見慣れた名前があった。 「僕の名前……」 貸してくれてありがとう、と書いてあるところを見るとこの本はどうやら僕の本で、感想を書いた手紙を挟んで僕に返す予定だったのだろう。 僕は記憶にない彼女の文字を酷く愛おしく感じた。 この手紙は、とても大事なものだと、僕の奥の方から声がする。 僕は、彼女を愛していた。 僕の名前を呼びながら、笑う彼女を記憶の底に見たような気がした。 僕は本を手に持ったまま立ち上がり、辺りを見回す。次に目に入ったのは、机だ。 片付いた机の上には、一冊のノートが置かれていた。 横に置かれたペンを懐かしく感じた。もしかしたら、僕が彼女にプレゼントしたものなのかもしれない。 なんとなく、その考えは正しい気がした。 沢山の思い出があるはずなのに、僕は本当に何も覚えていないのだろうか。思い出せないのだろうか。 急に息が詰まるような苦しさを感じた。 僕の心の何処かは、ちゃんと彼女を覚えていて、ちゃんと彼女の死を理解して悲しんでいる。 そう感じながら、僕は机に近づいた。 ノートは何処にでもある普通のノートで、シンプルな青色の表紙には彼女が描いたのか、上手いとは言えない猫の絵が描いてあった。 どうやら、絵心はなかったらしい。 大学で出会ったのかなと考えていたが、僕が通っていたのは美術系の大学だったため、違うかもしれない。 少しホラーにも見える猫の絵は、ほのかに僕の心を温めた。 彼女と一緒に絵を描いたことがきっとあったのだろう。
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