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ふたりでひとつ。
僕は奄美悠珠。
一人称は“僕”だが、一応女だ。
少し釣り上がった目にポニーテール、眼鏡が特徴的なただの小学生5年生。
自分で言うのもあれだが、美人だし頭が良いと思う。
「悠珠、次はなにをするんですか?」
隣から話し掛けてくるのは幼馴染みの石巻朱李。
非常に僕好みの顔の美男子だ。
女子ではなく、男子だ。
僕と同じく頭がよく、何故か懐かれている。
「次はクロスワードかルービックキューブがやりたい」
「いいですね。俺が持ってきます。少し待っていてください」
「いや、自分で持ってくr…………」
朱李は昔からこうだ。
僕が大丈夫と言っても先走って、気付いたらいなくなっている。
しかも、時々怪我をして帰ってくる。
「悠珠、持ってきました」
「ありが……………なんで怪我してるんだ」
今日は、腕を怪我している。
「クロスワードの本引き抜いたら本が角から降ってきました」
「はぁ…………気を付けろ」
「すみません、悠珠。いつも手を煩わせてしまって………」
僕は部屋の棚から救急箱を引っ張り出して傷口の手当てを始める。
「………ぃっ!」
強く押さえつけすぎて朱李が声をあげる。
「すまん。強くやりすぎた」
「いえ、俺からすれば悠珠に手当てをしてもらってるだけで幸せですから。悠珠に触れられることは幸福以外の何物でもありません」
「……若干引く」
「若干なら大丈夫です」
「ポジティブやめろ。引いてることに変わりない」
「ネガティブよりはいいと思いますけど」
「あと敬語も。何度言えば分かるんだ。僕はお前に敬語使わせたい訳じゃない」
「無理です。俺は貴女のことを心より尊敬していますので敬語を外せとの願いを聞き入れることはできません」
うわあ、と心の中でドン引きする。
「悠珠、顔に出てます」
僕は朱李から目をそらす。
「そんなこと、今はどうだっていいんだ。ルービックキューブやるぞ。時間計っとけ」
「わかりました」
朱李は腕時計のボタンを数度押した。
「いきますよ。よーい、スタート」
合図と同時に僕はルービックキューブを回しはじめる。
「終わった」
六色全ての面が揃うと僕はそう呟いた。
ピッ、とストップウォッチを止める音がしてそちらを向く。
「さすが悠珠ですね。また記録更新です。10秒21」
「思ったよりかかったな」
「いや、充分ですよ」
僕の言葉に朱李が苦笑する。
「またそーゆーこと言って………。朱李のほうが早いだろ」
「いや、でも俺が悠珠に勝てるのってこれくらいしかないですから」
「最高6秒82だろ? この僕と4秒差はすごいぞ?」
「4秒も差なんてありません。3秒39差です」
「細かい」
「功績を減らされる分にはいいですが盛られるのは気持ちよくありません」
「いや、減らすのもよくないけどね?」
僕は苦笑混じりに返す。
さっきとは逆だ。
「大体、したの面揃えて他の面揃えればそれで終わりじゃないか。練習すれば小学生でもできるぞ」
「悠珠も小学生ですけどね」
「僕たちはその辺の小学生なんかよりよっぽどずば抜けているから例外だ。そうだろう?」
朱李は僅かに逡巡した後、無邪気な笑みを見せた。
「そうですね。俺と悠珠がいれば最強です」
いつもの落ち着いた雰囲気からはかけ離れた歯を見せた笑みが心に刺さる。
(くっ…………可愛いかよっ!)
「………そうだ。僕と朱李がいれば最強だ。朱李がいればなにも怖くない」
僕も精一杯笑って見せた。
「………っ! //////」
朱李が顔を真っ赤にして顔を逸らしたことなんて気付きもせずに。
「ん? 朱李、どうした?」
「なんでもないですっ!」
いつもは強くものを言わない朱李が声を荒げたのが意外で少し驚いたが、そんなところも可愛く思えて僕は思わず微笑んだ。
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