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「~~っ! もう帰ります! また明日!」
(可愛いな)
「ん。わかった。また明日な」
朱李は立ち上がると部屋のドアを開けて玄関のほうへ歩いていった。
僕はそれに着いていく。
「あ、朱李、ちょっと待ってて。渡したいものがある」
「渡したいもの、ですか? ……………わかりました」
僕が思い出したようにそう言うと朱李は渋々といった様子で止まった。
僕は自分の部屋を目指して階段を駆け上がる。
部屋に入ると目的のものを見つけ、手にして部屋を飛び出る。
早くと思って駆け降りたその瞬間────
途中で足を踏み外した。
「きゃっ!」
(………! 早く受け身を…………いや、流石に間に合わないだろ。これは……………………………ヤバい)
「!? 悠珠!」
落ちると思ったその瞬間、何かに支えられるようにして倒れ込んだ。
「いっ………! ぁ、悠珠、大丈夫ですか!?」
朱李の声を聞いて冷静になった僕。
そして、今の状態を理解し、赤くなった。
理解した瞬間、また冷静ではなくなった。
朱李に抱き締められていたのだ。
しかも、すっごい笑い掛けられている。
(僕の幼馴染み、可愛いうえにカッコいいかよ…………!)
「なっ………え、はっ?」
「悠珠、痛いところないですか?」
「え、あ、あぁ。大丈夫だ………」
「そうですか。良かった…………」
(そんなことよりなんだこの体勢は。恥ずかしい以外のなにものでもないだろ)
そこでハッと気付く。
「おい、朱李こそ大丈夫か?」
朱李は僕の下敷きになるようにして倒れている。
なにもないわけがないのだ。
「はい。僕は大丈夫です。少し肩を打っただけなので大丈夫です。悠珠が気にするほどのことではありません」
「本当か? 嘘は絶対に許さない」
僕は起き上がって、朱李も起き上がらせる。
そして、朱李の下になっていたほうの肩に触れた。
「………っ、ぃ…!」
小さく呻き声を漏らす朱李に僕は顔を険しくする。
「痛いんだな?」
「いえ、これくらい、明日には痛みも引きますよ」
「嘘はダメ!」
そう言って僕は朱李の服の袖を捲り上げる。
赤く、腫れていた。
それを見て、申し訳なさばかりが込み上げてくる。
「朱李、ごめん。僕の不注意で怪我させて………」
「大丈夫です。悠珠を庇ってできた怪我なんて名誉でしかありませんから気にしないでください」
朱李は優しく微笑んだ。
いつもこうだ。
こうやって、誤魔化してばっかりで。
自分のことより僕のことが優先で……………。
「病院」
「いいです。そこまでの怪我じゃないです」
「良くない」
「いいんですよ。俺がいいって言ってるんですから」
自分がどうなってもいいって思ってる。
「良くない! それじゃあ、僕が良くないんだ! …………自分のせいで朱李に怪我させたのにそれを放置なんてできない。わかってよ、朱李」
朱李は唖然としている。
「ねえ、朱李。昔から僕たちはふたりでひとつ。朱李が痛いと僕も痛いの。朱李が辛いと僕も辛いの。これで朱李が僕から離れてっちゃったら、全部が怖い………」
頭に温かいものが触れた。
「ごめんね、悠珠。俺も悠珠と同じ気持ち。本当は怖いことも、悠珠がいるから普通でいられるんだ。大丈夫。俺は絶対に悠珠から離れていったりしないよ」
朱李が僕の頭を撫でていたのだ。
ぎごちなく、だけどしっかりと。
「俺んち来て。今日は母さんいるから、病院連れてってもらえる」
朱李は立ち上がると、僕にてを差し出した。
「………ありがと」
その手を取るとぐい、と引っ張りあげられる。
僕が立ったのを確認するとそのまま僕のてを引いて家を出る。
鍵はオートロックなので、閉じればかかる。
すぐ隣の朱李の家の玄関前に来ると、朱李はインターホンを押した。
ピーンポーン
『はーい。あら、朱李おかえり。悠珠ちゃんいらっしゃい』
朱李のお母さんの間延びした声が聞こえて、数秒後に扉が開いた。
「悠珠ちゃんが遊びに来るなんて珍しいじゃない」
笑顔で迎え入れてくれた朱李のお母さん───美優さん。
「美優さん、ごめんなさい。朱李を病院に連れていってください。僕が怪我させてしまいました」
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