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宣言通り、葉先輩は登校した。
俺はその間に権利を行使するための下準備を進める。今俺が生徒会室に向かっているのもその一環だ。
葉先輩の一連の要望を受けて、必須事項をできるだけ早くクリアする。そのために俺は事前にメールを介して生徒会室に召集をかけた。
生徒会室前についたら一番に立ちはだかるのは、大きな木製の扉。その高級感に何とも言えない緊張を滲ませて、唾をのむ。
生徒会室は何度来ても慣れないな、と思いながら三回ノックをした。
「入れ。」
失礼します。と一言おいて部屋に入れば目の前に広がる光景に圧倒される。
生徒会室の内装は煌びやかなものではなく、品を重視した重厚感ある作りだ。変に財力を誇示するのではなく、部屋にちりばめられたさり気ない技術でそれを体現する。
意図的に作りこまれた、真の上位者が好みそうな内装。
名のある家紋でもない俺なんかが委縮するのも無理ないことだ。
そんなことを諸戸もしない、来賓の椅子に静かにたたずむ生徒と生徒会のみ座ることが許された椅子の上で腕を組んでいる生徒に目線をやる。
両者とも虫の居所が悪いようで、眉間にしわを寄せて仏頂面をしている。
彼らの不機嫌さも相まってこの部屋は秒針の回る音しか聞こえてこないほど静かになっていた。
「・・・あー、元気?」
俺の気まずそうに声を受け取って、こちらを見る。
「遅い。もっと早く来い。こいつと一緒にいると疲れる。」
「それには俺も同意する。だが、江西は指定の時間通りに来ている。」
ようやくしゃべりだしたと思ったら、火花を散らして睨み合いを始める。犬猿の仲であるこの二人は、顔を合わせるだけで喧嘩が始まってしまうのだ。
今度はもう少し早く来よう、と決めて二人の間に入る。
「会長に委員長。悪い、こんな朝から。」
「俺は構わない。」
委員長は小さく微笑んで、気にするなと俺を見る。
「ありがとな、委員長。」
「ちっ。」
俺は椅子には座らず、二人が対称的になる位置に立ったまま今回の召集の理由を一から説明する。
「今回二人に集まってもらったのは、ある生徒に特権が下りることを報告するためだ。」
二人共あらかた予想はしていたようで、特に驚く様子もなく平然としている。
会長と委員長は報告を聞くだけで介入する権利はないからどうしてもこの一連の過程は作業化し、対象になった生徒への関心がそがれる。
いつもだったら構わないが、今回は会長に大いに関係あることだからちゃんと聞いてもらう必要がある。
俺は会長の注意を引くために、ポケットから輪ゴム取り出し狙いを定めて飛ばした。
「っ、何する貴様・・・。」
見事に命中して、会長は不服そうにこちらを睨みつける。
「会長は一番関係あるから耳かっぽじて聞け。」
「生徒会メンバーということか。」
会長は委員長の言葉でようやく気づいたようで、目を少し見開いて衝撃を受けている。
「今回対象となった生徒は3年S組の白津葉。希望により準備が整い次第彼は生徒会副会長という席を降る、特権付きで。もちろん親衛隊は解散させる。」
それを聞いた途端、会長は溜息を漏らして頬杖をつく。
「・・・よりによって白津か。」
「何かしらのストレスがあったのだろう。そうでなければ親衛隊のみ解散で済む。まったく生徒会はどうなっているんだ。」
委員長の主張には一理ある。だが親衛隊と役職は切っても切れない関係にあるから、ピンポイントに生徒会にストレスがあったとも言い切れない。
「そこは向き不向きの問題だと思う。目立つことが好きそうではなかったし単純にイベントの業務が嫌だったんじゃないか。」
俺の言葉で調子づいた会長はふんと鼻を鳴らし、ドヤ顔で委員長を見る。
「俺様の仕切る組織に問題があるわけないだろう。」
委員長はそれに青筋をたてて、頬をぴくぴくさせた。ここまで行ってしまえばある意味仲がいいよな、と思いながら苦笑交じりに二人を見る。
「これに関しては本人のみぞ知る所だ。確実に言えるとしたら、今回の一番の原因は親衛隊だということだけだな。」
最近の葉先輩を一度でも見たことがある者なら誰もが理解している周知の事実に、二人は同意するように首を縦に振った。
俺は報告は終わったので、早いとこ退散しようと生徒会室の扉の取っ手に手をかける。
「もう、行くのか。」
「ああ。まだやることあるしな。」
「あ、会長。」
顔を上げて「まだ何かあるのか。」と俺に尋ねる。
「葉先輩が辞めること、直前まで生徒会のメンバーにも言わないでくれ。先輩、仲間に説得なんてされたら取り消しそうだし。」
会長は少し微妙そうな顔をして、黙ってうなずいた。
会長もこんなこと一方的に言い放たれて、やるせない気持ちになっていることくらい俺にだって分かる。
だからささやかではあるがお詫びに、葉先輩が漏らしていた言葉を伝える。
「葉先輩、会長はいいリーダーだったって零してた。よかったな、慕われてたようで。」
「・・白津は俺様も評価していた。」
「確かに彼は優秀だったな。」
葉先輩の優秀さはとても人気投票だけで選ばれた面子とは思えないほどで、委員長も毛嫌いする生徒会の中で唯一評価していた。
「・・・・・・そうか。」
そう零した会長の声は少し震えていた。心なしか瞳も潤んでいるように見える。
俺と委員長は目を合わせて、目の前の信じられない光景に唖然とする。会長は俺たちの表情を不満そうにしてそっぽを向いた。
「っ俺様にだって感傷に浸るときがある。」
その一言で優しい気持ちにさせられ、俺は帰ろうとしていた踏み込んだ足を引っ込めて、会長のもとに近づく。
「ほら、ハンカチ。」
差し出した瞬間すごい勢いでとると、目元に当てた。少しだけ濡れたハンカチを俺の胸に押し付けると下を向いたまま俺たちと目を合わせようとしない。
隣を見てみればこの光景をほほえましく思ったのか、委員長も微笑んでいた。
「言われ慣れてないから、感動しちゃったらしい。」
俺は少しニヤニヤして、揶揄うように委員長に話す。委員長もそれに乗って不敵な笑みを浮かべ、会長を見下ろす。
「ほぅ、どれどれ。顔を見せてみろ。」
「貴様ら近寄るなっ。」
そこから会長は俺と委員長にひたすらいじられは慰められ続け、結局甘んじてそれを受け入れた。
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文章量が3倍になってしまいました。
結構内容も変わったので、修正前を知っている方はそこも楽しんでいただけたら光栄です。
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