1.優しい先輩

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その日の放課後再び会長と合流して、人が寄り付かない特別教室で人を待つ。 指定時間の10分前に来た待ち人はノックをして、扉を静かに開けこちらに近づく。 そして会長の秀でた容姿を見ても顔色一つ変えず淡々と尋ねた。  「何の用ですか。生徒会長。」 眼鏡をかけ常に敬語で容赦のない冷たさをあわせもつこの生徒は、流石「抱きたいランキング」の常連なだけあると感嘆させられるほど容姿端麗であった。 そんなハードルの高そうな生徒の顔色を窺うことなく、会長は一言はっきり言った。  「単刀直入に言う。生徒会に入って、副会長になってくれ。」 彼が来る前、俺は会長にこれからの流れを説明していた。  「次の副会長は2年S組の日高さん。これは決定として、会長。今から彼がここに来るから生徒会に勧誘してくれ。」 そして事前にコピーしてきた、彼の個人情報をまとめたリストを会長に渡す。ペラペラとめくり続け、ものの30秒で読み終えるとリストを俺に返した。  「なぜだ、貴様が言え。」  「会長から言わないと違和感覚えるだろ。それに俺はあまり目立って行動するのは・・・さけたいんだよ。」 会長は少し言葉を詰まらせた俺を見て、リストを再び自分の手元に戻す。  「・・分かった。俺様がやってやる。」  「まじ。やっぱ持つべきは会長だな。」  「ふん・・。」 何とかなりほっとして、気が大きくなり会長の肩を組む。  「まぁ、生徒会長ともあろうお方はこれからももっと下賤の者に配慮してもらわないと。」  「貴様下賤にしては図太すぎるぞ。」  「・・なぜですか。」 予想だにしていなかった勧誘に、日高さんの鉄壁のポーカーフェイスも崩れる。そして何か裏があるのではないかと、会長を疑い始めた。  「お前はとても優秀だと聞いている。冷静に広い視野で物事を見る必要がある副会長に一番適している。」 それを聞いた副会長は目を見開いて、顔を少し赤くして下を向く。 その間俺は会長口説くのやっぱ上手いなー。なんて呑気に考えていた。 会長が選んだ言葉ならば、誰にでも当てはまるような薄っぺらい口説き文句ではなく、目の前の日高さんに宛てていることがしっかり本人にも伝わる。 これを難なくやってしまう所を見ると、なぜこの人が会長なのか納得させられる。普段しゃべっていると忘れてしまうけれど。  「・・・・しかし、もう副会長はいるではありませんか。」 我に返った日高さんは、俺が一番触れてほしくない所に突っ込む。  「その副会長は今日を持って解任だ。」  「なんで・・いえ、やっぱりいいです。」 会長が理由を問わせないよう威圧すれば、副会長候補は忽ち何も質問することはなくなった。そして強引にも腕を組み相手を見つめ、早い返事を促す。 一方俺は日高さんの質問に内心冷や汗をかいていた。 もし会長が渋って俺が勧誘してたら、葉先輩の辞任の理由を聞かれた時点でゲームオーバーになっていただろう。 その間に日高さんは結論を出したようで、元の鉄仮面に戻って口を開いた。  「分かりました、そのお話受けましょう。ところでどうして隣に美化委員長がいるんですか。」 急に俺に視線が集まる緊急事態に俺はビシッと固まる。そして会長は重なるように俺の目の前に立った。  「・・・・こいつは、暇だからついてきただけだ。」 庇ってくれたとはいえ、如何せん俺と会長の対格は大差ない。そのため俺は会長の体から見事にはみ出てばっちり新副会長と目があう。 その気まずさに耐えながら、俺は会長の優しさに心温まっていた。  
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