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第十二話 潜入
森の奥で夜を過ごし、未明を迎える。満天の星は煌々と輝き、暗い大地を照らしている。賑わいを見せていた大都市は、往来を行く人々も忙しなく働く人もおらず、今だけは静寂に包まれている。
その中で、この静寂を崩さないように動く人影が三つ。ヘローク教団の礼拝堂への潜入を試みるミーリィ、ダス、ポンであった。
巡回する衛兵を避け、細く暗い路地に隠れる。先日この都市から逃げ出そうとした時と同じ緊張感が三人を襲う。鎧が揺れて擦れる音と石畳の道を踏む音に耳を傾けながら、何とかばれないように進んでいく。
そして、三人は礼拝堂へとたどり着いた。周囲の家屋の灯りがついていない一方で、礼拝堂は昼も夜も常に灯りがついており、その光が礼拝堂の中央にある塔の窓から溢れている。三人は屋根に上り、窓からの侵入を試みていた。
「いいか、とにかく慎重に、騒ぎは絶対に起こすな。大体は寝ているとはいえ、中には敵が沢山いる。こちらの存在がばれて仲間を起こされたら、潜入失敗だ」
「どういう作戦で入るんだ?」
ダスの方を向いてポンが尋ねる。
「ああ、待ってろ」
そう言うとダスは巨槍とやたら大きな鞄を置き、一人で窓から侵入する。その行為に二人は疑問を持ちつつしばらく待つと、その窓から一人、二人と気絶した教徒が投げられてきた。
「うわっ!?」
思わずミーリィは叫び声を上げ、ポンを抱えて後ずさる。すると窓から頭巾を被り、教団の服を着た人間が出てくる。ミーリィは握っていた鉄棍を構えると、その人は頭巾を取る。そこでその人がダスだと分かった。
「あ、ダスさん!」
「気絶させてきた。こいつらの服を借りれば、多少は潜入しやすくなる」
「……お前、潜入得意なのか?」
苦も無く侵入しては敵を気絶させてきたダスに、驚き呆れたポンは思わずそう零す。
「いや、初めてだ。ファレオは飽く迄現行犯に対処する側面が強いからな」
「頼んだおれが言うのもなんだけど……よくやるな、お前」
「ほら、早く着ろ。夜が明けるまでには終わらせたい」
言われるがままに二人は教団の服を着る。ミーリィが着たものは丁度良い大きさであったが、ポンが着たものは彼の体には大きく、ぶかぶかであった。
「おいこれ大丈夫か……?」
「流石にこの時間帯に子供は起きていないからな。悪いが、それで我慢してくれ」
ポンは溜息を吐きつつ「まあ、そうだろうな」と零し、服の裾を捲る。
「それとミーリィ、鉄棍を分解してこの鞄に入れてくれ。流石にそれを持ったまま入るのはまずい」
そう言いつつダスは巨槍の穂先と柄を分解し、やたら大きな鞄の中に入れる。場所によっては武器をしまう必要がある為購入したこの鞄だが、このような使い方をするとは思っておらず、彼は少し驚いていた。ミーリィは頷いて鉄棍を分解し、鞄に入れる。
「よし、それじゃあ入るぞ」
三人は礼拝堂の中に潜入する。塔の階段と並行に並べられている沢山の灯りが三人を照らし、ミーリィとポンの目を刺激する。
「ついてこい。さっき両親がいると思われる所を見つけた」
二人はダスについていく。街に入った時とは異なり、今度はこそこそする必要が無く、三人は堂々と廊下を歩く。
そうして廊下の奥に辿り着くと、地下へと続く階段に突き当たる。塔とは異なり、灯りはついているものの数は少なく薄暗い。
「この下に父さんと母さんが……」
「断言はできないが、恐らくはな。行くぞ」
そう言ってダスは階段を下り始めた。しかしポンはなかなか進み出せない。自分の父と母がいるのか、いたとしてどういう状態にあるのか、いなかったらどうすればいいか——そういったことを考えて怖くなっている。
そんな彼に、ミーリィは優しく触れ、語りかける。どうか、その心配が消えるようにと願いながら。
「大丈夫だよ、きっと」
「…………ああ、そうだな」
そうして二人も階段を下り始めた。
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