第一章 魔術師との邂逅

15/17
前へ
/17ページ
次へ
第十五話 救出                                    帝都ザラオスはグーラス山脈にあり、列車は山脈へと向かっていく。ポンは犯罪者を輸送する為の鉄格子付きの車両に乗っている。手持ち無沙汰なポンは窓から外の景色を眺める。風に揺れる木々と、雪を被った山々。  ——これで、良かったんだ。  そう、ポンは思う。勿論恐怖心は抱いている。しかし、これ以上ミーリィやダス、ひいてはファレオに属する人々を巻き添えにすることはできない。 「……これが、おれが唯一できる『誰かを守ること』なんだ」  そう呟き、自分の魔腑に視線を移す。  ——ごめん、母さん。おれの奇跡魔術は、誰かを守る為のものじゃない。  魔腑はその持ち主が欲しい魔術を一つだけ自由に決めることができる。それが奇跡魔術——その魔腑で行使できる最も強力な魔術となる。  彼は、確かに自暴自棄になっていたが、ただ己の身を引き渡した訳では無い。ミーリィとダスを今置かれている危険な状況から助ける為に、あえてこの道を選んだ。そして教団や帝国の言われるままに情報を吐くつもりも無く、逃げ出すつもりでいた。そして可能であれば、両親の仇を討つことも考えていた。  もしそれに失敗したら——死んで、父さんと母さんの元に行けばいいだけだから。  ポンは何を願い、どうやって脱出するかを考え——  突然、列車全体に強烈な衝撃が走った。列車は脱線し、木々をなぎ倒しながら大地を滑る。ポンもまた横転と同時に吹っ飛び、壁や鉄格子に体が打ち付けられる。  突然の出来事に困惑していると、横向きの車両の扉から衛兵が二人入ってくる。 「ここは大丈夫そ——」  もう一人の衛兵が扉を超えた瞬間、何者かに殴られて気絶し、倒れる。 「誰だ!?」  衛兵が槍を構えたのと同時に、彼の腹部に鉄棍の先端が直撃し、呻き声を上げて倒れる。  そして中に誰かが入ってくる。その姿を見て、ポンは目を疑った。 「……ミーリィ?」 「良かった……! 助けに来たよ!」  ミーリィは魔術で膂力を強化し、鉄棍で鉄格子を何度も打つ。そして歪んだ部分を掴み、ポンが通れる程度の大きさに広げる。ポンが出て来るや否や、ミーリィは彼を抱きしめる。 「おい馬鹿……! 今そういう状況じゃねぇだろ……! というか何で助けに来た……!?」  突然の出来事に困惑してポンが言うと、彼女は顔を上げる。涙ぐんだ目で、心配や安堵といった様々な感情の混ざった顔をしている。 「まだ子供なのに……大切な命なのに……重いものを背負わなくても、命を懸けなくてもいいんだよ……命を懸けるのは……わたしだけでいいんだよ……」 「わたしだけ、って……」  ミーリィの言うことの真意が分からず、ポンは思わずそう零してしまった。 「ダスは?」 「ダスさんは、敵を引き付けているよ。今のうちにポン君を——」  その時、爆発が起こったかのように、ミーリィ達の後ろで地面から炎が湧き上がってきた。咄嗟に振り替えると、それによって車両の一部が消し飛んだことが分かる。燃えてばらばらと落ちてくる車両の残骸、雪のように落ちてくる灰と燃え滓、その中をジャレンが歩いてきた。 「正直、このような事態になるとは思っていませんでした。まさかここまでの愚行に走るとは……」  彼の顔が怒りに歪む。ミーリィはポンを庇うように立ち——それと同時にジャレンが跳躍し、彼女の顔を掴む。 「その命で! 罪を償ってもらう!」  その言葉と共に、ミーリィを掴んだジャレンの掌から火柱が生じる。炎は彼女の頭を呑み込み、鉄格子に打ち付けられて床に倒れる。 「ミーリィ!?」  その悲惨なミーリィの有様に、ポンは声を上げる。  ジャレンは更に炎を願う。彼女の倒れた床から炎が上がる光景を想像し、そして実際に炎を生じさせる。彼女はまたも炎に呑み込まれ——たかのように見えたが、それと同時に跳躍をし、辛うじて回避した。  燃えて焦げたはずの彼女の頭部は、回復の魔術で元に戻っている。そのままジャレンとの間合いを詰め、鉄棍を振り下ろす。対するジャレンは剣を抜き、彼女の鉄棍を受け止める。お互い魔術による膂力の強化をした一撃だが、ミーリィがジャレンを押している。  すると彼は左手を彼女の顔の前に突き出す。その意図を一瞬で察した彼女は避けようとしたが間に合わず、先程のものよりも太い火柱に呑み込まれる。炎は車両の屋根を燃やし、突き破った。  噴火した火山のように吹き上がる炎によってミーリィは打ち上げられて宙を舞い、重力のままに落下して床に体を打ち付ける。先程同様回復の魔術で何とか元に戻ったものの、燃えて消えてしまった服は元に戻らず、彼女の肩や胸がさらけ出てしまう。  体の痛みと炎の熱を魔術で消しつつ、鉄棍をついて立ち上がり——それと同時にジャレンが放った銃弾が、彼女の体に撃ち込まれる。二発、三発と毒の込められた銃弾が撃ち込まれて彼女の体を蝕み、遂に倒れてしまう。立ち上がろうにも、痛みや毒がなかなか消えず、立ち上がれない。  そして、無慈悲にもジャレンは近づく。その首を、私の剣で落としてやると思って近づき—— 「もういいだろ!」  彼の前に、ポンが立ち塞がった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加