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「マッチはいりませんか?」
少年は遠慮がちな声でそう言いましたが、行きかう人々は、そんな声等聞こえていないかのように素知らぬ顔で行き過ぎます。
少年は、この季節には不似合いな粗末な薄い生地の上着を着ています。
よく見ると、靴には穴まで開いています。
(寒そうだなぁ……)
ルドルフが少年のことを見ていると、顔を上げた少年と目が合いました。
「お兄さん、マッチはいりませんか?
マッチを買って下さい。」
「え…ご、ごめん…
おいら、お金持ってないんだ…」
「……そう。」
少年は寂しそうな顔でそう呟きました。
「あの…なんでこんな日に君はそんなことをしてるんだい?」
「なんでって…そりゃあ、僕の家が貧乏だからだよ。」
ルドルフには悪気はなかったのですが、男の子は気分を壊したようでした。
「君の家では、クリスマスはやらないのかい?」
「だから言っただろう?
僕の家は貧乏だから、クリスマスなんて出来ないんだよ。」
男の子はますます機嫌を悪くしたようでした。
「でも、サンタさんが来るんじゃないの?」
「サンタさんなんて来ないよ!
貧乏なうちにはサンタさんは来ないんだ!」
「そんなことはないよ。
サンタさんはお金持ちの子供にも貧しい子供にもプレゼントを配るんだよ。」
「嘘だ!現に僕の家には一度だって来たことがない。
僕の家には煙突がないからだって、お母さんは言ってたけど、そうじゃない。
サンタさんは貧乏な子供が嫌いなんだ!
だから、僕の家に来ないんだ!」
少年は、涙を流しながら感情的な声を上げました。
ルドルフがびっくりするほどの大きな声でした。
「でも……」
「僕だってサンタさんなんて大嫌いだ!
クリスマスなんて大っ嫌いだ!」
そう言われた時、ルドルフの心はずきっと痛みました。
ルドルフはプレゼントを配る仕事は嫌いでしたが、サンタさんのことは大好きでした。
サンタさんは優しいし、お金持ちの子と貧乏な子を差別なんてしないことも知ってましたから、男の子に誤解されていることも悲しかったのです。
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