相思相愛

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夜―― 白夜城に用意されたグレイスの客室から見る月は美しかった。 誘われるようにテラスに出れば、頬に触れる夜風が心地良く、見上げた先にある月は、ガラス越しよりもさらに美しくて、 「ライアンの銀髪のようね」 月光が想い人に重なった。 「さっきまでずっと一緒だったのに……またすぐに会いたくなるなんて、どんどん好きになってしまって困っちゃうな」 口から漏れてしまった呟きに、返事があったのは少しあと。 「嬉しいけど……そういうことは、心のなかで呟いてくれ。もしくは、俺に、ちょ、ちょ、ちょくせつ、いや、その、結局なんだって嬉しいんだけど」 ごにょ、ごにょ。 中庭に面したテラスには、月光に照らされた白樺の樹が枝を伸ばしている。グレイスの部屋から少し高い位置にある枝の上で、片膝を抱えるように腰掛けるライアンは、月夜でもわかるくらい赤くなっていた。 耳もだけど、首まで真っ赤だわ。 照れている理由は、さきほど聞かれた「呟き」のせいであるのは訊くまでもなく。 「いつまでそこに座っているつもり? 白樺の枝はそんなに座り心地が良かったかしら?」 グレイスが手を伸ばせば、ライアンは羽のようにふわりとテラスに降り立ち、その指先に口づけた。 赤面していても一連の所作は自然で、 「本当に皇族だったのね」 改めて思う。 「まあ、一応」 大聖堂での宴が終わって、白夜城に戻ってきたのは1時間前。 『おやすみ、グレイス。また、明日』 部屋の前で別れたのは30分前のことだが、こうしてふたりになるのは、なんだかんだといって、レブロンの国境の森で魔坑道に引きずり込まれそうになって以来だ。 「あの、グレイス」 「なに?」 「ああ、その……なんて言うか」 うしろ頭をガシガシと掻きながら、ライアンは何度も言いよどむ。 「あのさ……俺」 「うん、なに?」 「こんなことを言ったら、グレイスに嫌われるかもしれないけど……」 なにかしら。とにかく言いづらそうだけど、あっ、もしかして! 「ライアン、まさか、婚約者がいるの?!」 公爵令嬢である自分にもいたのだから、ジリオン帝国の第4皇子に婚約者がいても、なんの不思議もない。他国の王女か、あるいは帝国内の有力貴族の令嬢か。 それはたしかに言いづらいことだ。それに、よくよく考えてみれば―― 「そうよね。レブロンの王族から婚約破棄されたようなわたしじゃ……」 「ちがうっ! 断じてちがう! 全部が全部、ちがうからな! 婚約者なんていない! 俺にはもちろんのこと、エドガーにも、フィリップにも、レイノルズにも、だれひとりしてジリオンの皇子には婚約者なんていない! 俺たち、全員、モテないからっ! レイノルズは3回フラれているし、フィリップなんて5回も、エドガーなんて10回以上――」 七耀の星たちが滞在する客室が面した夜の中庭に、ジリオン帝国の恥部がさらされた。
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