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この島にきてすぐ、
「はい、これ。プレゼント。まあ、そういう時がきたら使ってみてよ」
シモンに渡されていた魔法石を、グレイスは砕いた。
魔法石に込められていた空間魔法が発動する。
「どんな空間かは、石を砕いてみてからのお楽しみだよ。ルイーザにあれこれ注文をつけられて大変だったけど、なかなかの出来ばえだと思う。ちなみに、3カ月滞在可能な物資付だから」
とのことだった。
異能者シモンの魔法によって、天幕が変化していく。
「ここは……」
月明かりの下に広がる一面の白い花。
正面に見えるのは、泉に浮かぶ白亜の宮殿だった。
澄んだ泉の周囲には、淡紫の花が咲き誇るリラの樹があり、風にのった花弁が舞っていく。
「綺麗だわ」
絵画のような景色の美しさに見惚れるグレイスの身体が、フワリと浮き上がる。
白花のなかにある光の小道をすすむライアンは、横抱きにしたグレイスにささやいた。
「綺麗な花をみられるのは、今だけかもしれない。だから、グレイスは景色を楽しんで。俺は……余裕がない」
宮殿に向かってまっすぐ足をすすめるライアンの顔は、たしかに険しい。
ふたりが近づくと、宮殿の扉は自然とひらき、天頂から月光が降りそそぐ場所には、リラの花弁が散る寝台があった。
そっとグレイスを横たえ、真上から見つめてくるライアンの瞳には、狂おしい光が浮かんでいる。その瞳に映る自分を見て、「ライアン」愛しい人の名前を呼んで、グレイスは微笑んだ。
静かな夜。
ふたりだけの世界。
優しい口づけを交わして、グレイスの両手にライアンの指が絡まった。
熱い吐息が漏れ、互いの素肌が触れ合ったとき、
「俺のすべてを、キミに捧ぐ」
ふたりの想いが満たされるまでつづく、明けない夜がはじまった。
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