ディストピアへ

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穏やかな西風が吹いている。 艶やなか漆黒の髪をなびかせたルイーザは、ここ最近、シモンとユノーグを相手に愚痴てばかりだ。 「それで、いつになったら、あのふたりは暗黒島(ここ)に戻ってくるの?」 「さあ、それは……ふたりしだいというか、美食家マップのすすみしだいというか……なあ、シモン」 ユノーグに話しを振られたシモンは、作りかけの魔石から顔をあげた。 「そうだなあ。でも、白の宮殿からは思ったより早く出てきたから、案外、戻ってくるのも早いんじゃないの?」 「どこが早いのよ。1か月半も篭りきりだったのよ。あの、暴走勇者め。次にあったら、下半身を氷漬けにしてやろうかしら」 テーブルの端に寄せられた魔石の残骸を見て、ルイーザが顔をしかめたところで、3人の頭上に影が差す。 晴れた空から降りてきたのは、人外の美貌を持つ伝令者で、いつものように愛しい魔女のとなりに腰をおろした。 「ただいま、ルイーザ。これ、おみやげ」 シモンに作ってもらった状態維持の魔道具から出したのは、キンキンに冷えたアイスだった。 ユノーグの顔が一気に輝く。 「おおっ! それは風呂の町バスクの『シャキーンアイス』だ。それが土産――っていうことは、グレイスとライアンはいまゼータにいるのか。そうすると、カサレアを経由して、もうすぐレブロンに入るな」 「そういうこと。あとはライアンが、ローゼンハイム公爵夫妻から結婚の許可を貰えば、暗黒島(ここ)に戻ってくる」 唯一無二の親友の近況を聞き、すっきりとした甘さのシャキーンアイスのおかげで、ルイーザの機嫌もすこしだけ上向いた。 「ごちそうさま。それじゃあ、忙しくなる前に、わたしは今の仕事片付けて、半年は暗黒島(ここで)過ごせるようにしないと」 「俺もそうしようかな。聖皇庁に久しぶりの休暇を申請しないと」 ルイーザといっしょに腰をあげたユノーグに、 「神聖騎士団長様は忙しいだろうから、長期休暇は無理だろうな。ああ、そういえば、どっかの山奥で魔物の気配がしたような……」 刺々しい口調のイリスの頭を、剣の柄が小突いた。 「おい、イリス。また余計なことを聖皇の耳に入れるなよ。ようやく近衛から解放されてたっていうのに、おまえのガセネタのせいで、この間なんて、いもしない魔物の捜索を1週間もさせられたんだからな」 「噂好きの風の精霊の言霊を伝えてやっただけだ。噂話の真意を見抜けない聖皇も相変わらずバカだが、それに踊らされる神聖騎士団長もおなじくらいボンクラ……」 悪口が言い終わらないうちに、イリスの襟首を掴んだユノーグが投げ飛ばす。そうしていつものように取っ組み合いがはじまった。
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