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 保健室に行く気にもなれなくなって、校舎裏で一人座り込んでいた。苔だらけのコンクリート壁に背中をつけて、しくしくと涙を流す。  サトミちゃんとの一年間の出来事が、次々と頭の中で浮かんでは消えた。  初めて旅行先で会った時のこと。小さな公園で、サトミちゃんのカバンからぽろっと落ちたキーホルダーを拾ってあげたのが僕らの出会い。仲良くなってみかん畑に案内され、その日の晩にはお互いの家族で食卓を囲い、ご馳走ととれたてのみかんを振舞ってもらった。  それから一年間続いた毎週の文通。嘘つきで見栄っ張りの僕を、サトミちゃんはすごいすごいといつも褒めてくれた。本当の僕はちっともすごくなんてない、鈍臭くて良いとこ無しのダメ男なのに。  もしも、最初から嘘をつかずにいたら、今もサトミちゃんは僕とつながっていてくれたかもな。  ……なんて考えても、もう遅い。  ぶつけた場所よりも心が痛くて、誰もいない校舎裏で泣き続けた。どれだけ泣いても涙は枯れそうになくて、僕の体の中にある水分がそろそろ出きっちゃうんじゃないかと思ったその時だった。 「うわっ!」  頰にひやりと冷たい感触。  顔を上げると、そこには買ったばかりっぽい水滴たっぷりのポカリのペットボトルがあった。  そのポカリを持っていたのは。 「ゆ、ユキ」 「ピーピーうるさいわね。いつまで泣いてんのよ」
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