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7
気がつくと、僕は学校のグラウンドに立っていた。身にまとっているのは体育着だ。
校舎の壁を見上げると大きな横断幕、頭上にはいくつもの国旗。
そっか。時間が戻ったんだ。
僕は今、運動会当日の日曜日にいる。
空は、もともとの天気予報通りの雲一つない快晴。
僕は他のクラスの子達と並んで、石灰で引かれたレーンの上に立っている。
今はクラス対抗リレーの途中らしい。
ふと観客席を見る。僕の家族やユウキの家族、それから——。
「サトミちゃん」
会ったのはもう一年前だけど、あの可愛らしい三つ編みとくりっとした瞳はサトミちゃんだと一目見てわかった。
祈るように胸の前で手を組んで、僕を見つめている。
応援に来てくれたんだ。
嬉しさと一緒に胸に沸き起こったのは、これから嘘がバレてしまうというビクビクした気持ち。
だけど、これは僕が蒔いたタネ。
精一杯、頑張らなきゃ。
前の子から僕の左手に、バトンが渡った。
他のクラスの走者はまだバトンを待っている。今のところ、僕らのクラスが一位だ。
なんとか逃げ切るぞ!
歯を食いしばり、ぶんぶん両腕を振って全速力で走る。
普段体育以外で運動なんてしないせいで、あっという間に息が切れた。半分くらい過ぎたところで、心臓がひんひんと悲鳴を上げる。
一人に抜かれた。なんとか追いつこうと走るけど差はどんどん開いて、追いつくどころかもう一人に抜かれてしまった。
あと一つ順位が下がれば僕らは最下位だ。僕のせいでビリになるなんて、そんなの絶対やだ。
無我夢中で、両手両足を動かす。
と。
「うわっ!」
途中で足がもつれて転んでしまった。必死に手を振っていたせいで受身も間に合わず、顔から倒れて地面に思いっきり鼻をぶつけてしまった。
「い、痛いよお……」
砂と血の味を感じながら手をついて顔を上げる。隣のクラスの男子が僕を容赦なく追い抜いていった。当然だ。真剣勝負なんだから。
立ち上がり、涙と血と汗まみれのまま、なんとか次の走者までバトンを繋いだ。
そのあともみんな必死に走ったけれど、僕のせいで開いた差は縮まず、結果的に僕らのクラスは最下位だった。
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