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【サトミちゃんへ
この前送ってくれたみかん、家族であっという間に完食してしまいました。
とってもおいしかったです。いつもありがとう!
再来週、僕の学校では運動会があります。僕はリレーでアンカーになりました。他のクラスも足速い男子が多くて激戦になりそうだけど、僕がいるからきっとうちのクラスはぶっちぎりで優勝です。
サトミちゃんの学校も運動会そろそろですか? またお話聞かせてください。
コウタより】
※ ※ ※
「まーた嘘ばっかりの手紙書いてんの!?」
後ろからユキに覗き込まれて、僕は書き上げたばかりの手紙を両手で隠した。
「み、見るなよ!」
幼馴染のユキは、女の子の友達がいないわけじゃないけれど、「男子といる方が楽なのよね」と言って放課後よく僕の家に来る。そんで苦手科目の宿題を僕に手伝わせたり、冷蔵庫のお菓子をかってにぼりぼり食いつくしたりする。
……のは別にいいんだけど。
「その手紙、ちょっと貸しなさい!」
「やだね! また人がせっかく書いた手紙をビリビリ破くつもりだろ!」
「当たり前でしょ!」
「いい加減邪魔するなって言ってば! サトミちゃんと僕をつなぐのはこの手紙だけなんだよ!」
「見てらんないのよ。あんたがそうやって嘘ばっかりついてあの子の気を引こうとしているのが」
ソファにどかりと座ったユキが、腕を組んで口を尖らせる。
「う、嘘ってなんだよ。来週運動会なのはほんとだし、僕がぶっちぎりでゴールする可能性だって……なくは、ない、じゃん……」
「五十メートル二十秒が何言ってんのよ」
ため息をついたユキが、鉛筆を手にとって自分のノートをトントンと叩く。
「そんな嘘つき手紙書いてないで、さっさとここ教えなさい。どうせあんたの取り柄なんて勉強しかないんだから」
「失礼な……」
そう言いながらも立ち上がってユキの隣に移動する。相手がユキだとは言え、得意の算数で頼られると悪い気はしない。
「まったく。あんな一回会っ……女のどこ……いんだか」
「ん? なんか言った?」
よく聞き取れなくてユキの顔に耳を近づけると、ユキはぎょっとしたように飛び退いた。
「ちょ! いきなり近づきすぎ!」
「ごめんごめん。よく聞こえなかったから。てか、なんか顔赤いけど大丈夫?」
「な、なんでもないわよ! いいから早く教えなさいって」
気のせいか、ここ最近ユキは僕に当たりが強い。
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