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【ごめんなさい。しばらく忙しくて手紙を送れなくなっちゃうかもしれないの】
運動会の予定だった日曜から二週間後、サトミちゃんから来た手紙に書かれていたのは、そんな短い文章だった。
どういうことだろう?
いつもと全然違う雰囲気に胸騒ぎを覚えて、僕はサトミちゃんの家に電話をかけた。
八回のコールの後、出てくれたのはサトミちゃんのおばあちゃんだった。
『もしもし、げほっ……』
「もしもし。おばあさん! 僕、サトミちゃんの友達のコウタです!」
「ああ、げほっ、東京の、げほっ、コウタくんね。元気かい? 今サトミに変わるね」
なんだか体調が悪そうだ。
電話を代わってくれたサトミちゃんが話してくれたのは、次のような内容だった。
三週間前からひどい日照りが続いて、みかん畑の状態が悪くなっている。
しかも、どういうわけか、どれだけ水をやってもすぐに乾いてしまうのだという。
どうにかしないとみかんがとれなくなってしまうので家族でいろいろ頑張ってみたけどうまくいかず、おばあちゃんとおじいちゃんは働きすぎて体調を崩してしまっているのだとか。
『このままじゃ、うち、ダメかも。どうしよう、コウタくん』
聞いたことないサトミちゃんの涙声に、僕まで胸がキューっと痛くなる。
なんてこった。
僕が自由に雨を降らせる魔法でも使えたらいいのに。
……雨を降らせる?
ちょっと待って。
まさかとは思うけど。
「サトミちゃん、ごめん。いったん切るね」
電話を切って、窓際に吊るしたままだったふれふれ魔王さんに話しかけた。
「ねえ、ふれふれ魔王さん!」
魔王さんの白い体が黒に染まり、目が黄色く光る。
「どうした小僧? 願いを叶えたというのに、随分と浮かない顔じゃないか」
「質問があるんだけど」
どうか僕の勘違いでありますようにと願いながら、震える唇で尋ねる。
「運動会の日に雨を降らせた時の水分、どこから持ってきたの?」
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