Ayane

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「……なら、どうすればいい?何をすれば絢音はこれからも一緒に居てくれるんだ?」 『何もしなくていいです。元に戻るだけです』 「元になんて、今更戻れるわけがないだろ?何とも思わないのか?俺と実夏と一緒に過ごす時間も全て捨ててまで…自由になりたい?」 ─…本当は、気付いてたんだ。律希さんも私と同じ気持ちでいてくれているということに。 この半年の間、少し客観的に自分たちを見つめてみて分かったこと。…彼はいつだって私のことを─…愛してくれていた。 偽りの契約で結ばれたハズの私たち。思えば婚姻(ソレ)が、溺愛の始まりだったのかもしれない。 週末になるのが待ち遠しい、絢音と結婚して良かった、俺には絢音だけ─… ハッキリとした言葉こそ無かったものの…いつだって律希さんは、ちゃんと言葉に出して私に愛を伝え続けてくれていたんだ。 『……離婚、してください。お願いします』 だからといって今更考えを変えるつもりはない。この半年の間に一度だけ…私は実夏ちゃんを思い切り叱りつけたことがあった。 学校から帰ってきたミナちゃんが、一枚の絵を手にして帰宅したことがあり…ソレは私が小学生の頃に書いたポストカードで、持っているのはこの世界でただ一人、篤郎しか居ない。 まだ篤郎と親しかった頃、誕生日にプレゼントした手書きのポストカード。それをミナちゃんが手にして帰ってきたということは、篤郎がミナちゃんに接触したとしか考えられなくて─… 【近くで絵を描いてたお兄さんがくれたの!】 っと嬉しそうに笑ったミナちゃんからポストカードを奪い、目の前でビリビリに破いて捨てた 【知らない人から、物を貰っちゃダメっ!】 声を荒らげて実夏ちゃんを怒鳴りつけたのはあれが最初で最後。驚いたような顔をしてから「ごめんなさい」と涙を流す実夏ちゃんを見て心が傷んだのはまだ記憶に新しい。
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