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「…行ってきます」
心做しか、元気がないように思える実夏を送り出し…一人呆然と家の中で離婚届と向き合う。
─…これは…俺が残りのスペースを埋めて一人で提出しに行けばいいのだろうか?
ふと、婚姻届を出しに行った日のことを思い出して自然と頬が緩む。あの日俺が「娘がいる」と言ったとき、絢音はひどく怒っていた。その時の表情は今も鮮明に覚えている。
”…可愛い”
絢音の怒った顔を見て俺がまずはじめに思ったのはソレだった。しっかり者だという印象だった彼女が見せた素の表情は…とても可愛らしく思えた。
一緒に生活するようになり、徐々に彼女のことを知っていくうちに…もっと知りたい、俺のことを知って欲しい。そう思うようになり─…
【⠀私は、貴方の妻でしょ?⠀】
俺の事を本気で叱ってくれた彼女に、惹かれるのは時間の問題で。気付けば毎週のように週末の約束を自分から誘うようになっていた。
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