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とりあえず実夏を実家に預けて、一度絢音の実家に顔を出そうと考えた俺は…土曜日の朝早くからまだ眠そうにしている実夏を連れ出して実家へと足を運んだ。
「……あれ?今日は絢音さんは?」
いつも実家に帰る時は絢音が一緒だったから…隣に絢音が居ないことに早々に気が付いた母が声を掛けてくる。
「…あや姉、お仕事なの。」
独り言のように小さく呟いた実夏は、繋いでいた俺の手を離し、実家の中へ走って行ってしまった。
「週末までお仕事なんて、大変ね。しっかり支えてあげないと─…」
全く、その通りだと思うよ。俺は絢音がどんな仕事をしていたのか結局よく知らないまま別れてしまった。もっと彼女の話をたくさん聞いてやればよかった。
『…実夏のこと、よろしく』
これ以上長居すれば…余計なことを口走ってしまいそうで、逃げるように実家を後にして一度家へ帰った。
誰も居ない家で離婚届と向き合い…そっと万年筆を握る。出すにしろ、出さないにしろ…絢音がコレを望むのならサインしてやるのが俺に出来る唯一のことだと思うから─…いや、思うけど…中々筆が進まない。
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