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「あれ?マキ、今日もいつも通り遅いね。」
リビングで一番最初に話しかけてきたのは、橘 悠人。マキの二人目の兄。橘家の長男である。
雑誌の編集長として働いており、家にいる事は殆どない、結婚する気ゼロの男だ。そして、直人とは正反対にマキを甘やかしてしまう人物でもある。
周囲からは、直人が“世話焼き気質”と評され、悠人は“プレイボーイ気質”と評されている。勿論マキは“甘えっ子気質”である。
「何言ってんの?いつも通り、早いでしょ?まだ7時なんだし。」
マキが笑うのを見て、今度は直人が言う。
「夜の、7時、な。アホな事言ってないで、夕飯食べろ。」
悠人は呆れて笑った。
「相変わらず、というか何というか…」
「ところで兄貴は何しに来たんだ?」
直人がマキに食事を渡しながら聞いた。
皿の上に乗せられたハンバーグからは湯気がたち、かけられたデミグラスソースの濃厚な香りが鼻をくすぐる。
「僕だってたまには実家に寄りたくなる時もあるんだけど…。可愛い兄弟達に会いたいからね。まあ?確かに今回は別件で来たけど…ね。」
悠人の言葉に直人とマキは顔を見合わせた。
どうも嫌な予感がしてならない。
「ところで、あの人達は?」
"あの人達"。両親を嫌っている悠人の言葉には隠すつもりのないトゲトゲしさが感じられる。
「ああ、母さんと父さんは今旅行中。」
直人が答える。
「へえ。今回は何処に?」
「海外らしい。」
悠人は笑う。
「へー。あの人達も相変わらずだ。…ところで、「あ、アタシお腹いっぱいかも」…へ?」
悠人の言葉をマキが咄嗟に遮る。
「マジか…」
直人が呟いた時、悠人が目を輝かせた。
「直兄…」
今にも溜息を吐きそうな直人にマキが視線で合図を送る。
直人は(やっぱり)溜息を吐いて悠人に話しかける。
「マキは相変わらず少食だな。どうせ残すなら…兄貴、食べるか?」
「えぇっ?いいの?」
悠人が思わず喜びの声を上げた。
そう、彼には秘密があった。
“大食い”。1食10人分の食事を綺麗に平らげる体の持ち主。それでいて、全く太らない体質なのである。因みに知っているのは、家族のみ。
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