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人形供養のお寺
朝になれば鳥がさえずり、夜になれば蛙が大合唱するほどの田舎に、小学五年生の佐々木ノゾムは暮らしていた。
辺りは見回す限り田んぼだけ。その田んぼ道を越え、小さな丘を登った先に古びたお寺がポツンとあった。
もはや管理者はいなく、どんどん寂れていく一方のお寺。
しかしノゾムは、そのお寺が大好きで休みの日は一人でそのお寺に向かうのであった。
「可愛いなぁ」
お寺でノゾムは一人、ぽつりと呟く。
呟いた先にあるのは、ショーケース。ぬいぐるみや人形がズラリと並んであるのだ。
ノゾムは男の子。人形やぬいぐるみを買って貰えず生きていたので、この綺麗に並べられた人形達に憧れをもっているようだ。
このお寺はかつて、人形供養を行っていたらしい。管理者がいなくなった今でも、おたきあげをされなかった人形達はそこにいた。
ノゾムはその飾られた人形達を見るのが大好きで、ここに来ていたという訳だ。
何時間でも、ぼーっと見ていられる。ただたまに虫が体によってくるのが気になるだけである。
ここは地元民は知っていても、他の地域の人にはあまり知られていない場所。
休みの日に訪れて、ノゾムも人にあったことはなかった。今日までは。
「……あれ?」
ノゾムは、どこからか歌声が聞こえてくることに気がついた。木葉が擦れる音ではなく、鳥のさえずりでもなく、紛れもない女の子の歌声だ。
誰かここの存在を知ったのだろうか、と、ノゾムは歌声の方向に行ってみることにした。
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