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お寺の前に人形のショーケースはあったが、ノゾム自身もこの場所が少々薄気味悪かったため、ショーケースより奥には行ったことがなかった。
しかし明らかに歌声は、その奥から聞こえてくる。ノゾムは意を決して本堂の裏手まで回ってみた。
自分の背丈まである草がぼうぼうと生い茂り、ここにはどう考えても人はいなそうだ。
と、なると、歌声はやはり本堂建物内からとなる。
小さく常に木でできた扉は開いてあった。
ただ、それ以上に開けようとは誰もしない。
中がどうなってるかまではわからない。
恐る恐る、ノゾムは本堂へと続く短い木の階段に足をかける。一段昇る度にギリギリと音がなり、階段が腐って抜け落ちるのではないかと思うほどだ。
十数段の階段を昇り切り、中は覗かず、そっと耳をかたむける。
声の主は、やはりこの中にいるようで、明らかに声がハッキリと聞こえた。
今流行りの歌ではなく、学校で習う歌でもない、スローテンポの歌が聞こえる。
「……ここからだ」
音がこの本堂から、というのを確信したノゾムは、生唾を飲み込んで木の扉、数センチだけ開いているそこに手をかけた。
ささくれていて、素手で触るとチクりとする。
立て付けが悪く、そっと開けようと試みるも、全くびくともしない。
ノゾムは、一気に力を込めて、木の扉をスライドさせる。
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