10人が本棚に入れています
本棚に追加
中に入っていたのは白い日本人形だった。
七五三の写真にいるような位の年頃の女の子の人形。
それは真っ白い着物を着ていて、真っ白な髪、真っ白な肌。
唯一色があったのは、瞳。燃えるような赤い瞳を持っていた。全てが白いから、やけに赤い瞳に引き込まれるノゾム。
「……綺麗……」
ノゾムは息をのむ。
しかし、全体を見ようにも、大きなお札で大事な顔が半分しか見えない。角度を変えれば見えるけれども、正面からだと右半分がお札で隠れていた。
ノゾムは、これをもっとよく見たいという気持ちに駆られていた。
邪魔をしているお札を剥がそうと試みる。
べったりと貼られているため、中々剥がれない。爪でお札の端をカリカリ引っ掻いて、ようやく剥がれそうになる。
思いっきり引き剥がそうものなら、破けてしまいそうなので、ゆっくりとノゾムはお札を引っ張る。
そしてなんとか、お札を剥がした。
「……可愛い……」
その人形の全体を見て、思わず口をついて出た言葉。
頬はふっくらで、小さな口は口角が上がって、赤い瞳も含めて笑顔のように見える。
自分よりも年下に見えるからか、綺麗よりも可愛い印象の方が強くなった。
ノゾムがガラスケース越しの人形に見とれていると、少し開いている扉に向かって風が吹き抜けていった。
扉から風が入ってくるでなく、扉に向かって風が吹き抜けていったのだ。
ノゾムの付近には壁しかないのに--ノゾムもなんだか不気味に感じ、とりあえず外に出ようとした。
ガラスケースを扉付近に移動させ、次回またよく見ようと考えた。
また壊れたもの達を抜けて奥にまで行くより、扉を開けてすぐ確認したいようだ。
外に出ると、日が傾き始めていた。六月、日が延びてきたが、ノゾムは足早にその場を去った。
最初のコメントを投稿しよう!