人形供養のお寺

4/9
前へ
/70ページ
次へ
 中に入っていたのは白い日本人形だった。 七五三の写真にいるような位の年頃の女の子の人形。  それは真っ白い着物を着ていて、真っ白な髪、真っ白な肌。 唯一色があったのは、瞳。燃えるような赤い瞳を持っていた。全てが白いから、やけに赤い瞳に引き込まれるノゾム。 「……綺麗……」  ノゾムは息をのむ。  しかし、全体を見ようにも、大きなお札で大事な顔が半分しか見えない。角度を変えれば見えるけれども、正面からだと右半分がお札で隠れていた。  ノゾムは、これをもっとよく見たいという気持ちに駆られていた。  邪魔をしているお札を剥がそうと試みる。 べったりと貼られているため、中々剥がれない。爪でお札の端をカリカリ引っ掻いて、ようやく剥がれそうになる。 思いっきり引き剥がそうものなら、破けてしまいそうなので、ゆっくりとノゾムはお札を引っ張る。 そしてなんとか、お札を剥がした。 「……可愛い……」  その人形の全体を見て、思わず口をついて出た言葉。 頬はふっくらで、小さな口は口角が上がって、赤い瞳も含めて笑顔のように見える。 自分よりも年下に見えるからか、綺麗よりも可愛い印象の方が強くなった。  ノゾムがガラスケース越しの人形に見とれていると、少し開いている扉に向かって風が吹き抜けていった。 扉から風が入ってくるでなく、扉に向かって風が吹き抜けていったのだ。 ノゾムの付近には壁しかないのに--ノゾムもなんだか不気味に感じ、とりあえず外に出ようとした。  ガラスケースを扉付近に移動させ、次回またよく見ようと考えた。 また壊れたもの達を抜けて奥にまで行くより、扉を開けてすぐ確認したいようだ。  外に出ると、日が傾き始めていた。六月、日が延びてきたが、ノゾムは足早にその場を去った。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加