まえがき

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3. 「どうすればいいんだ・・・」 持ち物は、左のポケットに携帯、右のポケットにはハンカチがあり… カバンは電車に忘れたようだ… 汗ばむ手をハンカチで拭い、家に電話を掛けてみたが… 反応が無い? 何度も何度も繰り返しかけたのだが… 発信音さえ聞こえて来ない? 携帯のアンテナは三本立っていたが… 目を凝らしてアンテナを見るとオレンジ色の三本の棒が上下、左右に伸縮している! 「な、なんなんだ・・・!」 その滑稽な動きからも此処は違った次元では無いかと感じた? 「ど、ど、どうしたんだ・・・」 俺は焦りと怖れから… 心の中で… 「どうしたんだ!どうしたんだ!」を繰り返し唱えこの恐怖から逃れようとしていた。 そして、自分を慰めるかのように、ここまでのことを検証していた… 昨日は飲み会で9時前に横浜から電車に乗った… そして、電車は急行で横浜から菊名まで行き各駅に乗り換えた… 各駅は渋谷行き… その後眠ってしまったのか? 酒を飲んではいたが、泥酔するまで飲むこと無く意識ははっきりしていたが… 今、0時… それにしても時間がかかり過ぎている。 ここは渋谷か?いや違う? 風景が全く違う! 俺は何回か飲み過ぎ寝過ごし… 渋谷や自由が丘で駅員に起こされていたからだ… 俺は… 「横浜から急行に乗って菊名で各駅に乗り換えた…」 「時間は確か午後9時10分だったと?」 俺は横浜からの行動を何度も何度も繰り返し自分に言い聞かせていた。 それは、まったく意味のないことだが、焦りからこんな言い訳的な独り言を呟いていた。 そして… 「とにかく落ちつけ、とにかく落ちつけて」と… 自分に言い聞かせて納得させていた。 それにしても重苦しい空気を感じる… 改札口の向こうは、真っ暗で何があるのか想像もつかなかった。 ただ身体が震えていた… 俺は思わず叫んだ! 「何だこの感覚は!」 理解することが出来ない恐怖を五感で感じたからだ… それは… とてつもない物体が近づいている事を察知したのか? 改札口の外は闇… 俺は明るくなるまで動く気になれなかった… 今、動けば自分を全て失ってしまうような気がしたからだ… すると生暖かい風が鼻孔に入り込んだ… その臭いは物凄い悪臭で… 俺はハンカチで鼻と口を覆った。 「なんだこのニオイは…」 言葉を発した瞬間、その悪臭は体内に入り込んだ… その臭いは何かが腐敗したような…発酵したような臭いで… その悪臭を体内に取り入れた事から… 「ウォエ…ヴァエ…ゲー、ゲー」 胃が悲鳴をあげ… 胃に残された固形物が口にもどりむせ返るように嘔吐していたのだ… 「ウォエ…ヴァエ…ゲー、ゲー」 「ウォエ…ヴァエ…ゲー、ゲー」 その臭いを追い出すかのように、吐き気が止まらず… 容赦なく胃と咽を締め付ける… 俺は涙と共に嗚咽をあげ、むせ返しながらやっと呼吸をしていた。 その場に座り込み、膝を抱え丸くなり、訳のわからい恐怖に怯えていた… 果たしてここは…?
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