事件発生

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「逃げ足が早いやつだ」 『現在現場へD班急行中。合流されたし』  追っていてもすぐに巻かれてしまう。特に街角や細路地を利用して逃げることがうまく、なかなか捕まえることができない。 「そんなこと言っている場合じゃない。挟み撃ちだ。B班回れるか?」 『了解』  追加でD班の投入が決定されたとのことだが、合流なんてしている暇はない。一刻も早く捕まえなければならない状況だ。B班を予測逃走ルートの先へと回らせて挟もうと試みる。 「無駄な足掻きを。奴は壁を飛び越えて住宅に侵入」  だが、奴も馬鹿じゃなかった。少し低めの壁を乗り越えて住宅へと侵入。庭の木々や車の影を利用して、逃走ルートを変えていく。 「なっ!」  中央通りに出ると、車の行き交う交差点だ。  それでも奴は止まることなく、ちょうど車の間隔が途切れたところを見計らって渡っていく。  追おうとしても信号は赤だ。しかも車の間隔が途切れなくなってしまった。奴は我々が渡れないことを良いことに、ビルの影へと姿を消す。 「追え!何としてでも奴を捕まえるんだ」  各班に指示を送って捜索させる。  そう遠くには言っていない。全力で捜索すれば見つけられるはず。いや、見つけなければならない。 『こちらB班。コンビニ前で発見』  ビルの間や通りを見渡しながら走っていると、胸元の無線が鳴る。一本西に入った通りのコンビニで目撃とのことだ。すぐに路地を使って現場へと急行する。 「こっちか」  路地の出口直前で、通りを走り去る奴の姿を一瞬視界に捉えた。そのまま路地を抜けてその姿を追う。B班も後ろから合流した。 「裏路地に入ったぞ」  タッタッタッと走り、奴は人気のない暗い裏路地へと入って行く。 「これなら逃げ場はないだろう」  裏路地は、何回かL字に曲がってから出口になる。C班が出口に待機しているためこれなら捕まえられると思った。 『こちらC班。姿見えず』  だがしばらく待っても、奴が姿を現した報告がない。 「行くぞ」  仕方なく、警棒を構えながら部下と裏路地に入っていくこととした。 「…………………………襲いかかってくるかもしれん。気をつけて進め」 「はい」  恐る恐る裏路地を進んで行く。  放置されたゴミ、荒れたゴミ箱、転がった鉄パイプ。様々な物が地面に転がりながらも、人が通っている形跡はあるため、全く利用されていないということではなさそうだ。 「何っ!?」  警戒しつつ暫く進むと、いつの間にか出口になっていた。そこにはC班が待機していて、俺の姿を見て向こうも驚いた表情を浮かべる。 「奴は何処だ」  では、奴は何処に行ってしまったのか。  もう一度裏路地を確認しようとした時、入り口のB班から無線が入る。 『裏路地から出てくる姿を確認』 「何処に潜んでいやがった!?逃がすな」  奴はB班を突破して通りを逃げて行ったとのことだ。 『航空隊現着』  そうしていると、ヘリコプターの音と共に航空隊の到着を告げる無線が入る。警視庁から出動した航空隊は上空から追跡、位置の報告を行う。これであれば見失うことないだろう。 「よし、逃げ場はないぞ」 「駅に逃げ込むぞ。各班ホームを押さえろ」 『了解』  追っている先には駅がある。駅に残りの班を先に回し、仮にホームに行ってもいいように先に配置させる。  部下にパトカーを回すよう指示をし、俺はそのまま奴を追って、駅前で立ち止まり報告を待つ。 『駅の改札を乗り越えてホームへと侵入』 「おい、何しているんだ。奴を止めろ!怪我人が出るぞ!!!」  中に入っていたD班からの無線。  なんと改札を抜けてホームへと。幸か不幸か、ホームには電車が止まっている。  さらに、人も多いため凶器を振り回されたら怪我人が出てしまうだろう。 『電車の中に逃げ込みました』 「何でもありかっ!先回りだ!各班次の駅へ迎え」  続けて無線報告。  何をやっているんだ。まさか電車に逃げ込まれるなんて。最悪の事態が頭の中に浮かんできた。 「次の駅へ行くぞ。出してくれ」 「わかりました」  部下と共にパトカーで次の駅へ急行する。  何処で降りるか予測できないが、向かうしかない。 「何しているんだ……、警察の信用に関わる問題だぞ」  警察署に侵入した犯人を逃し、挟み撃ちをしてまでも捕まえられないとなれば、住民からなんと思われるか。  これは信用を背負った大追跡劇なのである――。
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