トライアングルチェイス

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『ここ数日、若い男性が突如行方不明になったという通報が相次いでおり、何らかの事件性があると見て、警察は――』 「お願いです先生。僕を助けてください」  事務所を訪ねてくるなり、青年は懇願した。 「良いだろう」  俺はテレビのリモコンを手に取り、電源をオフにした。 「最強霊媒師である俺に、任せておけ」  青年の目に光が灯る。 「で、何を祓ってほしいんだ?」 「こいつなんです」  青年がスマホを差し出してきた。 「こいつは厄介だな」  俺は目を細める。液晶画面に表示された、一枚の写真。笑顔で映る青年の隣で、ボロ布に身を纏う女が佇んでいた。 「この女に心当たりは?」 「それがまったく……」  青年は視線をさまよわせる。 「髪型をチェックしようと、自撮りしたんです。そしたら」 「映り込んでしまった……と」  写真を睨んだ。長い髪に隠された女の表情は、よく見えない。 「ひとまず、応急処置をしとくか」 「お願いします、もう僕は不安で不安で」 「まかせろ、だからまずは落ち着け」  身を乗り出してくる青年をたしなめた。 「すみません……」  青年は力なく椅子に座り込む。 「この女がどこまでも追いかけてくる気がして、夜も眠れないんです」  青年の肩に、手を置いた。 「安心しろ。今日からぐっすりだ」  俺はソファから腰を浮かす。近くにあった壺を、足元に引き寄せた。 「何ですこれは?」  怪訝な顔になる青年に、 「塩だ」  さも当然のように答えた。 「やはり悪霊にはこれが効く」  壺に手を入れ、俺は叫んだ。 「レサチタレサチタ! リョウアク、レサチタァ!!」  塩を掴み、青年の頭にばら撒く。奇声を上げ、塩をぶっかける。同じ動作を繰り返すこと、十分。 「これぐらいで良いだろう」  額の汗を拭った。 「気分はどうだ?」  訊ねると、 「何だか体が軽くなった……ような?」  塩にまみれた青年が、軽快に肩を回す。 「上手くいったな。あとは、写真を削除すれば終わりだ」  俺は白い歯を見せた。 「ありがとうございます! あの、お代は?」 「初回サービスでタダだ。また何かあったら、相談しにきてくれ」 「良いんですか!? ありがとうございましたっ!」  文字通り憑き物がとれたような、晴れ晴れした様子で、青年は事務所を後にした。 ※
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