19人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
『ここ数日、若い男性が突如行方不明になったという通報が相次いでおり、何らかの事件性があると見て、警察は――』
「お願いです先生。僕を助けてください」
事務所を訪ねてくるなり、青年は懇願した。
「良いだろう」
俺はテレビのリモコンを手に取り、電源をオフにした。
「最強霊媒師である俺に、任せておけ」
青年の目に光が灯る。
「で、何を祓ってほしいんだ?」
「こいつなんです」
青年がスマホを差し出してきた。
「こいつは厄介だな」
俺は目を細める。液晶画面に表示された、一枚の写真。笑顔で映る青年の隣で、ボロ布に身を纏う女が佇んでいた。
「この女に心当たりは?」
「それがまったく……」
青年は視線をさまよわせる。
「髪型をチェックしようと、自撮りしたんです。そしたら」
「映り込んでしまった……と」
写真を睨んだ。長い髪に隠された女の表情は、よく見えない。
「ひとまず、応急処置をしとくか」
「お願いします、もう僕は不安で不安で」
「まかせろ、だからまずは落ち着け」
身を乗り出してくる青年をたしなめた。
「すみません……」
青年は力なく椅子に座り込む。
「この女がどこまでも追いかけてくる気がして、夜も眠れないんです」
青年の肩に、手を置いた。
「安心しろ。今日からぐっすりだ」
俺はソファから腰を浮かす。近くにあった壺を、足元に引き寄せた。
「何ですこれは?」
怪訝な顔になる青年に、
「塩だ」
さも当然のように答えた。
「やはり悪霊にはこれが効く」
壺に手を入れ、俺は叫んだ。
「レサチタレサチタ! リョウアク、レサチタァ!!」
塩を掴み、青年の頭にばら撒く。奇声を上げ、塩をぶっかける。同じ動作を繰り返すこと、十分。
「これぐらいで良いだろう」
額の汗を拭った。
「気分はどうだ?」
訊ねると、
「何だか体が軽くなった……ような?」
塩にまみれた青年が、軽快に肩を回す。
「上手くいったな。あとは、写真を削除すれば終わりだ」
俺は白い歯を見せた。
「ありがとうございます! あの、お代は?」
「初回サービスでタダだ。また何かあったら、相談しにきてくれ」
「良いんですか!? ありがとうございましたっ!」
文字通り憑き物がとれたような、晴れ晴れした様子で、青年は事務所を後にした。
※
最初のコメントを投稿しよう!