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「話が違うじゃないですか!」
開口一番、青年は俺に詰め寄ってきた。
「兄ちゃんは昨日の……どうしたんだ?」
「これ見てくださいよ!」
鼻先にスマホを突きつけられる。俺は寄り目になった。
「マジかよ」
思わず呟いた。マンションのベランダを背に、撮影された一枚。ピースをする青年の横に並ぶ、負のオーラを放つ女。
「また自撮りって、お前、どんだけ自分が好きなんだよ」
「そうじゃなくて!」
青年は声を荒げる。
「お祓い、効いてないじゃないですか!」
俺は両手を前にのけ反った。
「分かった分かった。今回はもっとキツイやつで試そう」
「本当ですか……?」
「まかせろって」
親指を立て、近くの棚からアルミ水筒を取ってきた。
「これは?」
青年が眉根を寄せる。
「聖水だ」
水筒を開け、蓋に聖水を注ぎ、
「エマタメヨキ、エマタメヨキ!」
発狂しながら、青年に向かって撒いた。
「冷たっ! ちょっ、まって」
「エマタメヨキィ!」
「やめてくださいよ!」
突き飛ばされ、俺はよろめく。
「おっ、身体の調子が良くなってきたか?」
「むしろ、風引いて具合悪くなりますよ!」
「そうか……なら、お次はこれだ」
懐を探り、ライターを取り出した。
「ちなみにそれは?」
青年が白い目で見てくる。
「サタンの炎だ。悪しきものを浄化する。こいつで写真を焼けば」
「スマホ溶けますよね!?」
「じゃあ、この十字架で」
「ドラキュラじゃないんだから!」
「満月を隠さないと……」
「狼男か! ああ! もう!!」
青年は頭を抱え、天を仰いだ。
「さっきからふざけ過ぎですよ! いい加減真面目に」
「なら直接、兄ちゃんの家に行こうか」
俺の言葉に、青年は固まった。
「目の前で悪霊祓いしてやるよ。それで文句ないだろ?」
青年は一瞬ためらうも、頷いた。
「分かりました。では、明日お願いします」
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