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「姫!」
小太郎は飛び起きて思わず叫んだ。そこは自分の部屋だった。見回せば、枕辺にみつがいる。つつじはいない。つつじがいないのにみつがいることに小太郎は動揺を隠せなかった。我が子になにがあろうとみつはつつじを優先する。そう決められた乳母殿が側にいる。
朦朧とした意識の中で見たあれは幻覚ではなかったのだ。なのになぜ身体は痛まないのだろう。
「乳母殿……姫はいかがされた……」
みつはわっと泣き出した。
「泣いておられてはわからぬ! 答えてくだされ! 姫は!」
肩を掴んで揺さぶるとみつはどうにか口を開いた。
「消えてしまわれたのです。鯨が勝ち誇ったように踊るとそなたは息を吹き返し、傷は残らず癒えました。けれど、姫様は戻らず……」
鯨につつじを奪われたのだと理解するほかなかった。つつじは小太郎の助命を鯨に願ってしまったのだ。その対価がつつじそのものだったからつつじは帰って来ないのだろう。
「クソぉ!」
ダンと床を叩く。あの時、身体が勝手に動いた。危険だと感じたのに神木のそばに足が向かい、動けなくなった。あれも鯨の差し金だったのだろう。つつじはそんなことを知る由もなく。ただただ小太郎を助けたい一心で行ってしまった。あれほど怯え、恐れていた鯨の元へ。
「許さねぇ……ぶっ殺してやる……」
あの鯨がすべて仕組んだのだ。鯨はつつじが欲しかったのだ。あの美しく無垢な姫が。
「御館様はいかがされている、乳母殿」
「奥の間にて鯨討伐の兵をお集めです。目覚め次第来るようにと」
「承知」
外では風がごうごうと渦巻き、雨が激しく打ち付けている。すぐさま追いたいが、直景の判断が正しい。相手は弓も届かぬ空を舞う鯨だ。風があってはなおさら勝負にならない。
小太郎はすぐさま支度を整え、奥の間に向かう。奥の間には多くの家人が集まり、物々しい雰囲気だった。
「小太郎、大事ないか」
姿を認めるとすぐに直景に声をかけられ、小太郎は目を伏せる。
「なんともありませぬ。つつじ姫様は」
家人たちがざわざわと言葉を交わす。記憶通りなら神木の下敷きになり、半ば焼けたはずだった。だが、今の小太郎には傷一つない。不思議に思われて当然だろう。
「なにがあったかわかっておるか」
直景の問いに小太郎はゆっくりと頷く。
「姫は命に代えても取り戻します。あの鯨を殺すために鍛錬を重ねてきました」
ざわめきが大きくなる。今や神ではないとはいえ、かつては神だった鯨だ。誰もが躊躇するのは当然のことだろう。直景はざわめきを手で制す。
「策は考えてあるのか」
「飛び乗ることさえできれば」
鋭い目で見つめられて、小太郎は目を伏せる。
「ないのだな」
「はい」
空を飛ぶ鯨に乗る方法など、皆目見当もつかない。物々しい雰囲気ではあるものの、小太郎が入るまで沈黙が続いていた様子なのもそのせいだろう。
直景は深いため息を吐く。
「誰ぞ、策はないか」
彼の問いに奥の間はさっと静まり返る。やはり誰にも策はないのだ。嵐の音ばかりがごうごうと響く。
「どのような身分の者でもよい。策があるものは申せ。姫を取り戻した暁には褒美を授けようぞ!」
弓矢も届かぬ高さを飛ぶ鯨をどうこうする策があるものなどいるはずもない。だが、静まり返った中に忍びやかな笑い声が響いた。視線が集まるその先に一人の少女が立っていた。
帝のみに許されたお引き直衣をまとい、みずらを結っている。およそそこらの子供とは思えぬ少女の姿に戸惑いが広がって行く。白皙の頬に赤い唇。白と思われた直衣は薄紅。新緑の被衣で隠された顔は火傷のような痕がある。その姿は神木を彷彿とさせる。だが、そんなはずはない。木は木でしかないはずだ。
「何者か」
直景の重々しい声に少女はまた小さく笑う。
「何者かのう。春にはなれも盃を上げ愛でてくれたではないか」
春に盃を上げて愛でたのはツツジの花。
「まさか……」
少女は頷いて口を開いた。
「我はツツジの神木の化身。あの鯨めの戯れに雷を落とされ、怒っておる。力を貸してやっても良い」
少女の尋常ならざる言葉に笑うものはなかった。それほどまでに少女は異質だった。子供のいたずらでこんなことができようはずもない。少女は白魚のような手で小太郎を示す。
「小太郎、なれ一人で十分。思いの強さこそ、かの勇魚を討つ力となろう」
「私を鯨の元へ運んでいただけるのですか?」
少女は優雅に頷いた。
「直景、強弓と鏑矢、酒を持って参れ」
直景はすぐさま指示を出す。当主さえ顎で使う少女を小太郎は盗み見る。火傷さえなければさぞや美しい女神であるのだろう。その火傷は木が焼け落ちた故なのだろうか。
「なんぞ気になることでもあるのか」
風で梢が鳴るような声で問われ、小太郎は目を伏せる。
「その、姫に似ていると思ったのです」
女神はくくと笑った。
「我はその者が最も愛する女子に似る。愛しておるのだな」
小太郎は思わず顔を赤くする。女神はまたくくと笑う。
「よいよい、そうでなければ本懐は遂げられまい。小太郎、鯨は心惑わせる言葉を使う。なれが何を思い、何をなすか、ゆめゆめ忘れるでない」
「はい」
十人引きの強弓が運び込まれた。女神は鏑矢に一房の髪を結び付け、酒を吹きかける。
「小太郎、この弓を引けるか」
二度ほど弦を鳴らし、引き絞る。十人引きの強弓はやすやすと引かせてはくれないが、つつじのことを思えば引ける。
「問題ありません」
「よしよし」
女神は北西を指さす。
「開けよ」
鎧戸が開けられると風と雨がごうと吹き込んだ。
「さあ、小太郎、鯨はあそこじゃ。外すでないぞ。我が助けられるは一度きりじゃ」
神の癖にけち臭いと小太郎は思ったが、縁に進み出て鏑矢をつがえる。この強風で矢の勢いは削がれるだろう。的が大きくとも、距離は埋められない。鯨は数理先だ。
全身を風雨に打たれながら小太郎は意識を集中する。白い腹に黒い背の憎き鯨を確実にとらえるのだ。弓がぎりぎりと鳴る。
「南無八幡大菩薩、我が姫を守らせ賜え」
びょうと放たれた弓は鏑の音を響かせながら強風の中を飛んで行く。矢は飛ぶほどに光をまとい、速度を増す。ブレることなく真っすぐ飛び続けた矢がついに見えなくなった。
「うまいではないか」
遠くを眺めている様子だった女神が笑う。どうやら無事に射込めたようだ。
「さて、参ろう。弓はもういらぬ」
小太郎が慌てて弓を置くと手をぐんと引かれた。たちまちのうちに身体は宙に舞い上がる。地に足が付いていないのはそら恐ろしい。
行きはこの女神が保証してくれるとはいえ、帰りはどうするのだろう。勢いだけで来てしまった。無計画にもほどがある。
だが、つつじが取り戻せないなら死んでもかまわない。ならば帰りの心配などしている場合ではないのだ。ただただつつじを取り戻す。それだけだ。
「自分の足を使え、小太郎。我が髪が道になっておる」
「へ?」
小太郎はうっかりと間抜けな声を出した。てっきり浮いていると思った女神は自らの足で歩いているようだった。彼女が速いせいで身体が浮かんでいるだけで、小太郎も髪の上を走れるらしい。足元をよく見ると確かに光の筋が浮かんでいる。それが彼女の髪のようだ。小太郎は恐る恐る足をついて走る。
「うまいうまい」
女神に褒められて小太郎は曖昧に笑う。まったくこの細い姿のどこにそんな力があるのだろう。
「あれに見えるが鯨じゃ。後れを取るなよ」
「はい」
眼前に鯨が迫っていた。遠く見ても巨大な鯨は近くで見ればなお大きく、小山のようだ。
「どうやって鯨を討てばよいのですか?」
「知らぬ。我は所詮木の神。戦うは専門外じゃ」
「え」
女神はころころと笑う。
「先ごろの威勢はどうした。心と力のこもった得物、強き心、それさえあれば三枝小太郎直実は負けぬ」
小太郎がなにも言えずにいると女神はころころと笑う。
「できるできる。なれはつつじ姫を取り返すのであろ?」
簡単に言ってくれると小太郎は思った。近づくほどに巨大さが明らかになる。背に負った刃渡り六尺大太刀でさえ短刀ほどに短い気がしてきた。もはや考える時間はなく、出たとこ勝負をするしかない。
「小太郎よ、恐れてはならぬ。恐れればあれの思うつぼよ」
「あなた様はあれが何者かご存知なのですか?」
「古い知り合いでな。あれは人の心に巣食う悲憤を食うのよ。かつては真っ当な神であったに、いつしか魔道に落ちた。人間をもてあそんでは悲しみや不幸に陥れて悦ぶ。我にはかかわりなきことゆえ放っておいたが、つつじを手に入れるため我を怒らせた。つつじは我の花をいつも愛でてくれたゆえ、気に入っておったしの」
この女神は人間とは違う理で生きている。ただ人間が不幸になるだけであるなら手出しはしなかったのだろう。己が身に危険が及んだから手出しする気になったようだ。
「つつじも、その母も特別清い心を持っておった。その分、恐れや穢れに弱い。ゆえに狙われたのじゃ。たれも甘やかしすぎているように見えたしの。つつじもなれのように図太ければ良かったのだが」
「図太くなきゃ姫の側にいられない」
誰もがつつじを甘やかしていたのは否定できない。だが、それは彼女の弱さや身分の高さ、境遇を鑑みれば仕方のなかった部分もある。なにより鯨に仕組まれた以上、今回のことは避けきれなかったようにも思う。
「なれはそれでよい。なれは聡いゆえ考えすぎるきらいがあるが、今はただ鯨を殺すことだけ考えよ」
女神の足が鯨の背を踏む。間もなく小太郎の足も鯨を踏んだ。女神の髪は頼りなかったが、鯨の背はしっかりと硬い。果たして刃は立つのだろうか。いや、立たせるのだ。小太郎は周囲を見回したが、つつじらしき姿はない。
「さあ、参ったぞ、鯨。大人しゅう海を泳いでおればよかったと後悔させてやるゆえ、返事をせい!」
女神は言い聞かせるように飛び跳ねる。
「おやおや、どなたかと思えばあなたでしたか、薄紅の君。地上を離れるとは木神としていかがなものでしょう」
女神は鼻で笑い、だんだんと足を踏み鳴らす。
「おぬしのせいで我は終わりよ。おぬしの落とした雷のせいで我は枯れる。ゆえに礼参りよ。黄泉路の供を命じる」
鯨はいともおかしそうにくすくすと笑った。女神が一度きりしか助けられないと言ったのは本体たる木がないせいだったらしい。あまりにも余裕があるような振る舞いが多く、気付けなかった。
「なにも思わないのが木神かと思っていましたが、あなたの悲哀はとてもおいしい」
「だから、おぬしは嫌いなのだ。趣味があまりに悪い。人々の笑みや幸福を喰らえば、今も神でおられたものを」
「悲憤の方がおいしいですから」
くくと笑った鯨はひどく不気味に思えた。これはおよそ人間の理では測れない生き物だ。
「力なき神であるあなたが私を殺すために連れてきたのが小太郎ですか? たかだか人間に私を殺せると?」
「殺せるさ。人間の思いの強さが神を作る。おぬしもよく知っておろう」
「知っていますよ。私を神にしたのも、魍魎にしたのも人間ですから」
「時代が移ろえば、変わるもの。変わらぬものは追われる。おぬしは追われるものになって長いと言うにのさばり、あまつさえ一線を越えた。おぬしも終わる時が来たのだ」
鯨は嘲るように笑う。
「終わるのはあなただけでしょう。小太郎、まっすぐ進みなさい。あなたが欲しいのはそれでしょう?」
小太郎は鯨に促されるまま歩を進める。平たんに見えた鯨の背は意外と凸凹していた。歩き続けると濃色の袴と鮮やかな細長が目に入る。
「姫!」
思わず駆け寄り、抱き起す。つつじは息をしていなかった。身体はすっかり冷え切り、柔らかさも失われている。
「嘘だ……姫、返事をしてくれ……」
頬に触れても愛しい姫は目を開けず、小さな唇には血が付いていた。
「姫! 目を開けてくれ!」
揺すってみても、強く抱きしめてみてもつつじは目を開けない。鯨は声を上げて笑い出した。
「ああ、おいしい! あなたの悲しみはとてもおいしい。小太郎、いいことを教えてあげましょう。つつじ姫はそれはもう健気でしたよ。君を助けるために自ら毒の盃を煽ったのです。すべて私が仕組んだとも知らずに。怯えて震えながら、涙をこぼして、盃を煽った。とても、かわいくて……おいしかった!」
「殺す……」
怒りを通り越して、もはやなにも感じない。この鯨だけは刺し違えても生かしてはおけない。小太郎はつつじをきれいに横たえ、大太刀を抜き放つ。
「貴様だけは! 絶対に殺す!」
鯨はけたたましく笑った。
「私の背の上で、振り落とされたら死ぬ。ちっぽけなあなたが私を殺す? 私に助命された君が?」
小太郎は問答無用で大太刀をその場に突き立てる。抵抗はあったが、刃は鯨にぐぶぐぶと食い込んでいく。
「黙れよ、この化け物鯨。俺を生かしたのは姫の純粋な思いだ。貴様なんかじゃない。鯨なら殺せるはずだ! なあ!」
ぐりと刃をひねると鯨は醜いうめき声を上げた。
「そうそう、その調子だ、小太郎」
女神の上機嫌な声がした。
「姫を守ってくれ」
女神は軽々とつつじを抱き上げ、小太郎から離れる。
強い抵抗を感じながら太刀を引き抜くと赤黒い血が噴き出した。血が通っているなら心臓があるはずだ。勝機はある。
突如、鯨が身をよじった。振り落とす気だと気付き、小太郎は刃を突き立て、しがみつく。
「振り落とせるもんなら振り落としてみろ! この大太刀が貴様を切り裂くぞ!」
鯨は笑わず、身をよじるのをやめた。
「私が死ねば、あなたは地面に叩きつけられますよ。あなたも死ぬ」
「かまわねぇ。俺も黄泉路に付き合ってやるまでだ! 姫が俺を生かしたのは貴様を殺すためだ! お方様の、姫の無念を、恨みを晴らすためだ! 俺は貴様を殺す!」
大太刀をぐんと押し倒すと鯨の血が噴き出した。黒い背とは似ても似つかぬ赤い肉に小太郎は切り込んでいく。
「やめろ!」
鯨は小太郎を振り落とそうとするかのように身を揺らす。小太郎は引き下がることなど欠片も考えなかった。ただただ鯨を殺し、二度と同じことが起らぬようにしたかった。
つつじを失ってしまった今、己の命さえ価値はない。
鯨が身をくねらせると奥深くまで切り込んだ小太郎を押し潰すように肉の壁が迫った。
「くっ」
すぐさま大太刀を横向きに構える。大太刀が肉にぐんと食い込んだ。鯨は無様な鳴き声を上げる。鯨は反対に身をよじり、空間が開いた。小太郎は取って返して大太刀を引き抜く。無理な力がかかったのか途中で折れてしまった。握れるばかりに突き出た刃をそのまま握って引き抜く。手のひらに鋭い痛みが走ったが、気にならなかった。
「短くなってちょうどいいな」
身体の中に切り込んでいくには長い大太刀は邪魔になり始めていた。二本になった太刀でぐいぐいと斬り進む。
「鯨、貴様は死ぬんだ」
腕ほどもある血管を挟んで切り裂き、小太郎はさらに斬り進む。全身鯨の血に塗れ、太刀を握る手も滑る。鯨の熱気でのぼせそうだ。鯨はもうものを言わず、高度をぐんぐんと下げていた。
「鯨よ、この姫の魂、おぬしが持っているな」
どこか遠くから女神の声が聞こえた。
「持っていたらなんだというのです」
鯨の声はずいぶんと弱っていた。ただ巨大で、人間をもてあそぶことしかしなかった鯨に抵抗の術はないらしい。
「姫を助けてやれば、小太郎も骸を弔うくらいしてくれよう。このままでは死ぬだけでなく、腐りはてて消えることになるぞ」
「消えても、かまいません。人間一人に弔われたところで、なにもならない」
「人間一人を侮って命潰えるおぬしなればこそ、その弔いが必要に思う」
鯨は喉の奥でゴロゴロと笑った。神や神であった者にとって弔いは特別な意味を持つのだろう。小太郎にはわからない。だが、鯨の息の根を止めるまで、そう時がないことはわかっていた。心臓の音が鼓膜を破りそうなほどうるさい。
「返したら弔ってくれるとは思えないほどの憎悪が私の腹に溜まるのですが」
この期に及んでも鯨は人間の心を食うのをやめていないらしい。
「鯨! これがお前の心臓だな!」
小太郎はドクドクと脈打つ壁を前に叫ぶ。
「姫を生かしてくれるなら、弔いくらいしてやる!」
「見逃してはくれないのですね」
「お前がまた悪さをすると困る」
鯨はくくと笑った。
「当然の罰と人間は言うのでしょうけど、私は食事をしていただけ。君たち人間が狩りをして動物を喰らうのと何が違うのですか? ただ生きるために喰っただけなのに」
「人間は狩る。だが、獲物に殺されることもある。それが自然なこと。お前は獲物を選び間違えた。俺を怒らせたのが運の尽きだ。罪だなんだはわからねぇ。ただ、姫がまだ助かるなら助けてほしい。助けてくれれば弔いはする」
鯨は山の頂に巨体を横たえ、深く息を吐く。
「獲物に狩られるのも自然、か……小太郎、助けることはできますが、つつじ姫の命はあなたを助ける対価として差し出されました。あなたが死ぬかもしれません。それでもいいですか」
小太郎は折れて短くなった太刀をしっかりと握り直す。
「俺はあの時死ぬはずだった。お前が仕組んだにせよ、なんにせよ、あの時俺は死んだ。元通りになるだけだ」
鯨は深いため息を吐いた。
「ブレない人間は嫌いなんですよ。揺さぶり甲斐のない。いいでしょう、つつじ姫は助けます。弔いを忘れないでくださいよ。ただの腐肉になるのはごめんです」
「ああ」
切っ先のなくなった太刀で心臓を切り裂く。血が瀑布のごとくあふれ出し、小太郎は一気に押し流された。全身に強い痛みが走る。鯨が元に戻したのだと小太郎にはわかった。
「姫、愛している……」
彼の声は誰にも届かぬまま、消えた。
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