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真実
あの大火災から、数十年が経った。
「じゃあフラウ、お疲れ! いつも遅いけど、あんまり根詰めんなよ!」
「うん、ありがとう。お疲れ様」
パソコンを注視したまま、声だけで同僚を見送る。研究室の奥に、フラウ一人だけが残った。
ブラインドタッチで文書を作成する。制作しているのはとある申請書だ。ぎっしりと詰められた文章に、ありったけの思いを込めていく。
フラウは現在、研究者として活動している。成長するにつれ、自然と志すようになった。
不便な暮らしにおいて、〝考えること〟こそが娯楽だったからかもしれない。加えてもう一つ、長年の疑問もあったからだ。
残念ながら、ニネットは早くに亡くなってしまった。
彼女は、生涯レディンを愛し続けた。本当に良い夫婦だったと、フラウの心に強く温かく残っている。
ふと気付き、デスクトップをテレビ画面に切り替える。
タイトルを写し出すテロップには"大火災の真相はいかに! 殺された英雄と信じ続けた息子を追う"と書かれていた。
仰々しい表現に苦笑しつつも、胸には誇らしさもあった。
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