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フラウが長年続けた調査――それこそが大火災の全貌だ。持ち続けていた疑問こそが、レディンの選択についてだった。
ニネットの言葉を信じてきたフラウだったが、年を重ねるにつれ選択が正しかったのか考えるようになった。
もちろん結果が何であれ、フラウがレディンを嫌う理由にはならない。
ただ"現実的に"正解だったのかを知りたくなっただけだ。
発生から終息まではもちろん、別の手段で鎮火を試みた場合のシュミレーションもした。
そこから酸性雨のこと、フィルター外の世界など、関連する事柄全てに足を伸ばしていった。
結果として得た答えは、国中を衝撃で包んだ。数年経った今でさえ、まだ話題になるほどだ。
単刀直入に言って、レディンの行動は正しかった。
調査結果によれば、あの方法を取らなかった場合、被害は甚大になっていた。それこそ、国の存続すら危うくなるほどに。
加えて、酸性雨による死亡者はほぼ零との結果も出た。死亡原因は、ほとんど火によるものだったのだ。
雨の酸性度は、あの時既に薄まっていたのだろう。今や、雨の酸は脅威ではない数値と化している。
半年ごとに敢えてフィルターを開き、水質調査した結果、分かった。
明確な理由は不明だ。ただ、人の排出する有害物質による変化ではないか――と言われている。フィルターによって物質の影響が遮られ、薄まったと言う仮説だ。
今もまだ、フィルターの管理は続けられている。エトビアの人々にとって、雨は未だに恐怖の対象らしい。昔ほど厳重な体制はないが、開閉も許可無くしては出来ない。
だが、そんな状況でも、フラウには叶えたい夢があった。酸性雨が人を殺さないと知った時、抱き始めた夢だ。
人を殺すことがないのなら、可能性はある――。
番組を見終えてすぐ、書類作成に戻る。この申請書は、管理会社に送るものだ。無論、拒否を想定の上で。
長い戦いになるだろう。それでも、決めたからには突き進むしかない。
あの日、レディンがそうしたように。
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