選択

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 レディンの中、一つの策が挙がった。だが、それは禁忌に値する行為になる。  行えば、待っているのは罰だ。ニネットやフラウまで巻き込むかもしれない。けれど。 「ニネット、率直な意見を聞かせてほしい。冷静になって考えてくれ」  真正面で向かい合う。昂っていたそれぞれの感情が、言葉と表情で鎮まって行く。 「……分かったわ」 「この状況を打開できる唯一の策を思いついた。けど、実行すれば唯では済まされない。君たちにも迷惑をかけるかもしれない」  管理職につく前に、必ず学習と試験を経る。学ぶ内容には、フィルター設置前の歴史もあった。  その中に未曾有の大火災も含まれており、終息までの経過が辿られていた。  それをレディンは思い出したのだ。当然、ニネットも知識を得ている。だから、詳細を口にする必要はなかった。 「……貴方まさか」 「うん、多分君が思ってる通りだ。意見を聞く前に一つだけ私情を挟むよ。僕は、なんとしてでもフラウを死なせたくない」  全てを口にし、意見を待つ。ニネットは複雑な心境に駆られながらも、レディンの愛に共感した。 「……賛成するわ。大丈夫よ、罪を被る時は決して一人にしないわ」 「ありがとう。でもこれから君には、フラウの元へと向かって貰いたい。それこそ、フラウを一人には出来ないからね」  迷う時間などない。そんな現実だけが二人の感情を殺す。ニネットは、何も言えずに背を向けた。 「ありがとうニネット、愛してるよ。もし僕に何かがあれば、フラウにも同じ言葉を伝えてくれ」 「私も愛してる。けど、フラウには直接伝えてあげて。無事を祈るわ」 「ニネットもね」  レディンだけが部屋に残った。扉を越えたニネットは、フラウの元へと全力で駆け出す。  レディンの苦い微笑みを、ニネットの溢れそうな涙を、知るものは誰一人としていない。
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