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決断
レディンが第一にとった行動は、地上部への連絡だった。総監督に直接、現場から消防員を退けるよう要請を出したのだ。
反対を前提に、はっきりと今後の行動も示す。当然、反応は好ましくなかった。
『何を考えているんだ! そんなことをすれば、君もただでは済まされないぞ!』
「そんなことは百も承知です。でも実行します。これは僕が一人で決めました。なので責任も一人で負うつもりです」
マイクに語りかけながら、開閉システムを起動する。文字列を打ち込み、固く閉ざされたセキュリティを開いて行く。部屋に怒声が響いたが、手は止めなかった。
『助かる可能性のある人間を殺すのか! 土地だって死ぬかもしれない!』
フィルターを管理するレディンには、十分すぎるくらい分かっていた。
酸性雨の驚異も、先祖への裏切りとなることも、全てを理解した上で選ぼうとしているのだ。
人を殺しもするが、生かしもする。どっちにしろ責められるなら、愛しい人を救いたい。自己中心的だと罵られようが構わない。
そんな覚悟が、レディンの中で固くあった。
「それは、このまま何もしなくても同じだ!」
マイクに吠えると、指揮官の声が退いた。
「とにかく僕はやります。なので今すぐ撤退命令を」
『おい、ちょっと待て! もう一度考え直し――』
スピーカーの電源を落とす。開く窓の番号を打ち込み、エンターキーに指をかける。一瞬躊躇ったが、すぐに深く押し込んだ。
大火災の上、雨が降りだす。
収束後の未来が過ぎったが、フラウの笑顔で掻き消した。
雨よ降れ。降り注いで、炎を全て飲み込んでくれ。
レディンが選んだのは、燃え盛る町に雨を降らす方法だった。
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