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ニネットとフラウは自宅にいた。
町は混乱に包まれ、避難指示は愚か、満足な救出作業も行われていない様子だった。レディンと外に出ていても、きっと共倒れしていただろう。
初めて耳にする、雨の雑音がニネットの心を荒らす。フラウはと言うと、音を不思議そうに聞いていた。
「ねぇ、パパまだ帰ってこないの? フィルター直すのってすっごい大変なんだねぇ」
「そうよ、今はお外に出ないようにって言われてるから、良い子にしていましょうね」
ニネットはフラウに、パパは修理中だと嘘を教えた。その上で普通を装い、外の状況には一切触れなかった。もちろん、火の手が迫ってきた時は逃げるつもりだ。
ただ、炎は来ないと――レディンが必ず止めると信じていた。
「うん! 帰ってきたらパパの好きなご飯にしよう! だって、もうすぐ帰ってくるんでしょ?」
「何でそう思ったの?」
「だって、頑張ってた音がなくなったもの!」
フラウに笑まれ、ニネットも気づく。混雑していた音の中から雨音が消えたことに。
フィルター開放から、実に一日後のことだった。
終了を悟り、泣いてしまう。死を免れた安堵と、今後訪れる悲劇への恐怖が胸に押し寄せた。
だが、フラウに内面が悟られないよう、悲しみの気配は消した。
「……そうね、パパは頑張ったわ。だから、いっぱい褒めてあげましょうね」
「うん!」
だが、その後レディンが帰宅することも、家族が再び集うこともなかった。
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