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大空
濃淡の美しい青、様々な形を織り成す雲。頭上一面を覆い尽くす空の下、親子が手を繋いで歩く。
右側に父が、左側に母が、真ん中には幼い息子がいて、仲睦まじく散歩していた。
息子であるフラウが、大空を仰いで笑う。空に太陽はなく、眩しさもない。
「パパ、お空の向こうではお水が降ってるんでしょ。しかもずーっと。僕、まだ信じれないな」
この知識は、国民なら誰もが知っていることだ。とは言え、現代人からすれば、歴史の一説程度にすぎない。
この国、エトビアの空は作り物だ。実際は『フィルター』と呼ばれるものが都市を覆い尽くしている。
形容するなら、ドームの屋根のようなものだ。大きな傘と教える教科書もある。
人々は、そこに写される映像を見ているにすぎなかった。外では強い酸性雨が降っているが、市民のほとんどが雨の形すら知らない。
「ご先祖様が、大変な思いをして作って下さったからね。感謝しようね」
「うん!」
嘗て、エトビアは雨による被害にかなり苦しんだ。
一年中続く有害な雨により、作物が痩せ、死んでいった。連動して飢餓が訪れ、命すら危ぶまれるようになった。
このままでは国が滅ぶ。そう危惧した先祖たちが、懸命な試行錯誤の末、生み出したのがフィルターなのだ。
当初は映像すらなかったが、時代と共に進化していった。
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