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瑞代の理想の君・2
佐々木栄之介。佐々木倫之介。そして青之介様。
みんなよく似たお名前でしかも青之介様と倫之介さんはお顔がよく似ていらっしゃる。その上、青之介様のように書生として我が屋敷にやって来た。はたしてこれは偶然なのかしら?いいえ。これはわたしの深き想いが呼び起こした奇跡に違いないわ。
「佐々木倫之介さん。わたしはあなたの正体を知っているわ。だから本当のことを教えて欲しいの。あなた、本当の名前は青之介っていうんでしょ!?」
「……いえ……。倫之介ですが……」
やはりそうね。本当の姿をそう易々と明かしたりしない。そっちがそう出るならこちらにも考えがあるわ。わたしは着物の裾に隠している葉っぱの純愛ブルースの小説本を取り出して倫之介さんに差し出した。
「これを見てもまだしらを切る気!?あなた本当はこの本から出て来た青之介様なのでしょ!?」
「……え……?」
目を丸くさせて小説の表紙を見つめる彼は一瞬固まったあと「あ……」と小声を漏らした。ほらやっぱりそうなんでしょ?倫之介さんの顔が赤くなったのが分かった。
「これ……僕の父が書いた小説です……」
「うんうん、そうでしょ?って――え!!?」
「父の小説を読んでくださっているのですか?父はきっと喜びます。ありがとうございます」
「え!?え!?どういうこと!?あなたあの佐々木栄之介の息子だっていうの!?」
「はい」
「でも葉っぱの純愛ブルースの青之介様のお顔にあなたのお顔がそっくりなのよ!?」
「それはきっと父が僕の顔をモデルにしただけだと思います。僕の顔は亡くなった母に似ているそうで父は僕の顔が好きだといつも言っていたので」
「え!?え!?じゃぁ、あなたは青之介様のモデルってことなの!?」
「えっと……その小説を僕は読んでいないのでなんとも言えないですが、おそらく顔に関してはそうなのかと……」
「あなた葉っぱは咥えるの!?」
「え!?葉っぱ……?咥えないですが……」
青之介様じゃなかった……。そうよね。だって、青之介様の年齢は17歳だし、お身体も大柄で筋肉質で荒くれ者なのですもの……。全然違うじゃない。けどお顔は青之介様……。でも青之介様ではない……。
がっかりしたわたしはふと机の上に沢山のノートが積まれていることに気付いた。物書きの息子なら彼も物書きを目指してたりするのかしら?興味が沸いたわたしは思わずそちらへ歩いていた。
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