瑞代の理想の君・2

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「あなたも小説を書いたりするの?」  ノートを手に取って広げようとしたとき、倫之介さんは「待って!!!」とすごい勢いで走ってきてわたしからノートを取り上げた。びっくりしていると倫之介さんは小さな声で「すみません……」と謝ってから言った。 「僕は……小説は書きませんが絵は描きます……。これは絵です……。将来は画家になりたいと思っています……」  机の上に積んであるノートをわたしから隠すように引き出しにしまう倫之介さんを見ながら問いかけた。 「画家になりたいのなら大学へ行く必要ないのではなくて?」 「好きな子と約束したんです。大学へ行ってお金持ちになったらお嫁さんにするって」 「まぁ!あなたその歳で婚約しているの!?」 「尋常小学の1、2年生は共学だったので……相思相愛の仲になった子が将来お金持ちになったらお嫁さんになってくれるって言ってくれたので……」 「まぁ!すごいわ!あなたそれで本当に大学へ行くために書生にまでなったのね!とても一途なのね!でもその子はなぜあなたがお金持ちにならないと一緒になってくれないのかしら?本当に好きな相手ならお金なんてなくても一緒になりたいって思うものじゃない!?」 「それは、その子のお母さんがお金持ちとしか一緒になっちゃ駄目だって言うからで……その子は僕以外とは一緒になるつもりはないって言ってくれてます……」 「まぁ!そのお母様はとんだ悪女ね!あなたからお金をしぼり取るつもりだわ!」 「違います!それはチ……娘のことを想ってのことで、僕も実際問題男は経済力があったほうがいいと思うし」 「あら!でも絵描きと大学を目指すなんて大変なのに、そんなこと好きな人に強要すべきではないわ!」 「いえ、これは僕が選んだことなんです……!僕はあの子を幸せにするためならどんな努力だって惜しまないから……!」  力強いその言葉と男らしいその表情にわたしの胸は強烈なパッションに打ち抜かれ、そこに青之介様を見た。 「……青之介様……?」  いえ、ちがう。この方は佐々木倫之介さん。青之介様ではない。けれどもわたしが恋い焦がれた青之介様の一途さと純愛を感じる……。  嗚呼、やはり彼は青之介様……。ただ主人公はわたしじゃなくて他の女性だったという話――嗚呼、悲恋……――。
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