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あたしはお母ちゃんの両脇を持つとガニ股になりながら後ろ歩きをしてお母ちゃんを引きずり出した。
それを確認した倫之介は、梁をなるべく下まで下げてからそっと手を放した。梁が床に落ちる音がして砂埃が舞った。
倫之介はお母ちゃんの前でおんぶの格好をした。
「僕の背中にかやさんを乗せて!!」
「わかった!!」
倫之介はお母ちゃんをおんぶすると、あたしに昼飯は食べたか、今履いているブーツは歩きやすいか、持って行けそうな飲み物や食べ物は無いかと聞いたので、昼飯は食べたしブーツは歩きやすいと答え、床に転がっていたホコリと傷まみれの梨を拾って着物の裾に入れた。
歪んだ壁の隙間から外に出ると、風でホコリや塵が舞っていて、あたしの髪がぐちゃぐちゃになった。
布団やタンスなどの沢山の荷物を荷台などに乗せて歩いている人たちが何人かいた。倫之介はみんなが歩いていく方角とは違う方向へ歩き出した。
「ここに来る途中、あっちこっちで火の手がまわっていた。風も強い。建物の少ない開けた土地へ行ったほうがいい。この状況だと電車もあてにならないだろうから、かなり歩くことになるけど大丈夫?」
「あたしは足腰ががんじょうだ。どこまででも歩ける」
あたしは倫之介に付いて歩いた。倫之介は常にあたしとお母ちゃんの様子を気にしながら歩いていた。何度か休まなくてもいいかと聞いたがあたしは頑丈なので休まなくても大丈夫だった。お母ちゃんも倫之介の体調さえよければ休憩はいらないと言った。倫之介がはぐれるといけないから僕に捕まって歩けと言うので、倫之介の腕に捕まって歩いた。今まで歩いたことのないほどたくさん歩いた。
強風を受けながら、度々揺れる地面やあちこちで起きている火事に驚き避けながら、火事と地震から逃げるように歩き続けると、田んぼや畑が一面に広がっている土地に出た。所々にある家は一部崩れていたり、ぺちゃんこになっていたりしているが、火事は全く見当たらない。しかし風は相変わらず強い。巻き上がる砂に目を閉じながら砂利道を歩いていると、何かが後ろからぶつかってきた。振り向いて薄く目を開けて見ると大きな男の人の姿があった。
「すみません。ごめんなさい」
あたしは目を閉じながら謝った。男の人も謝った。
「いや、こちらこそ。砂埃で目が開けられなくて。小学校へ行くんですよね?」
「小学校?」
「違うんですか?避難所に開放されたって聞いたから。みんな小学校に集まってます」
倫之介が横から言った。
「僕たちは別のところから避難してここに来ました。避難所まで一緒に行ってもらってもいいですか?」
男の人は「もちろん」と答えた。風が緩やかになったので目を開けたら、男の人の横には赤ちゃんを抱いた女の人とお婆ちゃんがいた。気付けばたくさんの人々が大きな荷物を持って同じ方向に向かって歩いていた。
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