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チヨと職業婦人・1
倫之介はあたしたちのために毎日せっせと働いている。おかげで29円40銭も貯金が貯まった。だが崩れた家を建て直すにはまだまだ足りない。足の悪いお母ちゃんをいつまでもバラックに住ませておきたくないからあたしも働かなくては。
「お母ちゃん、あたし仕事ないか探してくる」
「え……?仕事……?」
お母ちゃんは驚いた顔をした。分かっている。またクビになる心配をしているのだろう。しかしすぐに笑顔で「いい仕事見つかるといいね」と言ってくれた。
バラックを出たあたしはその辺の人たちに声をかけた。
「なにか仕事はありませんか?」
「無いよ」
「なにか仕事はありませんか?」
「女の仕事なんてねぇよ」
『女の仕事はない』と言う泥んこまみれなステテコ姿のおじちゃんに更に聞いた。
「男の仕事ならありますか?」
「お嬢ちゃんは女だろ?」
「お給金男より少なくてもいいので仕事ください」
「力仕事しかねぇよ。女には無理だって」
「あたしは頑丈なので力仕事もできます」
「無理だっつってんだろ」
「仕事ください」
「無理だって!」
「仕事ください」
「だから無理だって!」
「仕事ください」
「あ――!!なんなんだ!!しつけぇな!!!」
あたしはおじちゃんに紹介してもらって建設現場の仕事にありつけた。一輪車の手押し車にコンクリートの元たるものを入れて現場まで運ぶの係になった。一輪車はバランスが難しく、地面がでこぼこなこともあって左右前後にぐらぐらと揺れた。あたしはぐらぐら揺れながら歩いた。すれ違う男たちがあたしを笑った。
「お嬢ちゃん腰が入ってないよ!」
「おいおい、誰だよ?女雇ったのは」
「ひっくり返すなよ!」
「ぐぬぬぅ……!!頼むから定まってくれぇ!!」
あたしは一輪車に頼みごとをしながら一歩一歩前へ進んだ。そのとき聞き覚えのある声がした。
「チヨちゃん……!?」
見ると倫之介が空になった一輪車を押した格好で立っていた。
「おお!!倫之介!!ここで働いてたのか!!」
倫之介は豆鉄砲をくらったみたいな顔をしていた。
「こんなところで何してるの?」
「早く家を建てたいからあたしも働くことにしたんだ!!」
倫之介は少しの間呆然としていた。
「……家……?……どの道チヨちゃんが働いたところで数年はかかるよ。とりあえずその猫車を置いて。僕がそれ運ぶから」
「ダメだ!これはあたしが任命を受けた仕事だ!最後までやり遂げる……!」
あたしは石ころや砂のでこぼこに気をつけながら一輪車を押して進んだ。
この日もらえたお給金は倫之介の半分の半分のより少なかった。
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