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瑞代とおチヨちゃん・1
今日はおチヨちゃんと街で会う約束をしているの。
とても楽しみだわ。
カフェーで貯めたお給与、少しくらい遊びに使ってもいいわよね。
わたしは以前お父様に買ってもらった白いブラウスと赤いスカートを着て姿見の前でいろんな角度から見ていた。
どこからどう見てもモガだわ。
おチヨちゃんはどんな格好で来るのかしら?楽しみね。
リボンが付いた茶色いコートを羽織り、コートとお揃いの手提げ鞄を手にして玄関へと向かった。
スカートと同じ色の赤いヒールを下駄箱から出して履くわたしにうたが心配そうに言った。
「お嬢様。そのチヨとかいう娘は危険な臭いがします!まず名前が危険です!一度わたくしめがその者と対面をし、確認してから交流を深めてくださいまし!」
「なにを言っているの?おチヨちゃんは安全よ。帰りが遅くても心配しないでね」
玄関のドアを閉めると同時にうたが「お嬢様!」と叫んだ。
うたったら本当に心配性なんだから。
震災から復興がだいぶ進み、街にはそこそこの数の建物が建っていて、ちょっと買い物をしたり食事をしたりくらいは出来るまでになっていた。
真新しい街並みに溶け込んでいる真新しいコンクリートに大きな窓と木のドアが付いた喫茶店の前でおチヨちゃんを待ったわ。
ちょっと早く来過ぎたかな。
約束は12時で、懐中時計を見るとまだ15分前の11時45分だった。
そのとき歩道の前に自動車が停まってそこには運転席に清四朗さん、隣の席におチヨちゃんが乗っていたの。
「おお!!瑞代ちゃん!!待たせたか!?」
自動車から飛び降りるおチヨちゃんに清四朗さんが「危ないだろ」と注意をした。
清四朗さんは本当におチヨちゃんが好きなのね。おチヨちゃんは清四朗さんと婚約しているのかしら?早く恋のお話がしたいわ。
おチヨちゃんは白色のコートを着ていて手提げ鞄は持っていなくて手ぶらだった。
おチヨちゃんはわたしに駈け寄りながら大きな声で聞いた。
「瑞代ちゃんは今日は何時まで大丈夫なんだ!?」
「え?何時でも大丈夫よ?」
「清四朗が迎えに来る時間を教えろと言っている!」
「あ……じゃぁ、5時くらにしとく?」
わたしはお父様とお母様がいないから何時でもいいけど、おチヨちゃんにはお母様がいるものね。
わたしの前まで来たおチヨちゃんは「わかった!」と言いながらわたしの両手を両手で握りながら清四朗さんに振り向いて大声で言った。
「清四朗!!5時だ!!」
清四朗さんは普通の声で「分かった」と言って車を発車させた。
わたしはその後ろ姿を見送りながらおチヨちゃんに言ったの。
「清四朗さんって素敵な人ね。おチヨちゃん幸せそうで良かったわ」
「そうだな。清四朗には毎日ありがとうと唱えている」
「うふふ。おチヨちゃんは相変わらず面白いのね」
「そうか?お腹がペコペコだ。喫茶店に入ろう」
おチヨちゃんはわたしの手を引いてステンドガラスが付いた木のドアを開けたわ。と同時に温かい空気が出てきて煙草の煙とコーヒーのにおいがした。
ガヤガヤと賑やかな人の声とお皿とフォークがぶつかる音があちこちから聞こえていて、わたしたちは真ん中のほうの空いている席に座ったの。
コートを脱いだおチヨちゃんは白茶色に白い襟が付いた可愛らしいワンピースに茶色のベルトをしていて、そこに小さな茶色い鞄がくっ付いていた。
「おチヨちゃん素敵なお洋服と鞄ね!」
「お?おお、清四朗がくれたんだ。あたしは鞄は忘れるからこのオモニエールたる鞄にハンカチーフと財布だけ入れていけと言われた」
「ワンピースも全て清四朗さんが揃えてくれたの!?」
「ワンピースも全て清四朗が揃えてくれた。清四朗の家は洋服も鞄も靴も売ってるからそこから選んでくれた」
「前も思ったけど清四朗さんって気前がいいわ」
「そうだな。清四朗は気前がいい」
「大事にされているのね」
「清四朗は優しいんだ」
「そうね」
わたしたちは同じライスカレーを頼んだ。
おチヨちゃんは「おいひぃ、おいひぃ」と口いっぱいに頬張りながら10皿もおかわりしていた。たくさん食べるのね。可愛いわ。
おチヨちゃんと居るととても楽しい。
ずっとこうしていられたらいいのに。
そうすればお父様とお母様と倫之介さんが居ない淋しさもきっと忘れることができるのに。
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