うたの忠義・2

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うたの忠義・2

 お嬢様がチヨと言う名の者と会うとおっしゃって出かけられた後、心配だったので付けてきてみれば、お嬢様の待ち合わせの相手は案の定あのチヨでした。  悪女の娘であるチヨ。  奥様を苦しめ続け、松尾家崩壊の原因となった諸悪の根源の娘。  あの娘はなかなか手強い相手です。いったいどうすればお嬢様から引き離すことができるのでしょうか?  思い返せばわたしが松尾家に女中として来た日、お嬢様はまだ11歳のあどけない少女でした。  当時16歳だったわたしは両親から早く嫁に行って安心させてくれと言われ、いくつかの縁談をもらっていました。  しかし鼻の穴が大きくて豚のような顔をしたわたしはことごとく縁談を断れ続け、傷つき、松尾家の女中になることで結婚から逃げたのです。  それなのに顔だけではなく物覚えまで悪いわたしは周りに迷惑をかけてばかりで、使用人仲間はそんなわたしにきつく当たりました。  けれども松尾家の皆様はそんなわたしを庇い、優しく接してくださりました。そんな優しい松尾家が悪女のせいで不幸に陥っていたのです。許してはならないのです。  しかしながらわたしももう25歳。世間からは行き遅れだと後ろ指をさされます。  世間では働く女性を職業婦人だともてはやしてはいますが、それは結婚ありきであり、結婚をせずに働き続けている女性がもてはやされることはありません。  先日兄が縁談を持ってきました。  相手は46歳で妻を結核で亡くした7人の子持ち。しかも長女はわたしと同じ年齢だと言います。  わたしの見合い写真を見ても断らなかったと言いますが、正直親子の年齢差があるおじさんで、しかも3人も自立してない年齢の子がいる男との結婚なんてしたくはありません。けれども結婚をしなくては社会に溶け込むことが出来ず、生涯変わり者だと腫れ物のような扱いを受けて生きるしかなくなってしまいます。  わたしに選択の余地は無く、見合いは2日後の夜で、相手が断らない限りわたしは結婚をするしかないのです。  ただ心残りなのはお嬢様です。わたしが居なくなれば1人になってしまいます。こうなったらすぐにでも倫之介さんと夫婦になってもらうしかありません。  なのにお嬢様ときたら恋仇だとは知らずにチヨと呑気に仲良くしているではありませんか。お人好しにもほどがあります。もしチヨの正体が悪女の娘だと知っても友達だと言えるのでしょうか?  わたしは再びチヨと倫之介さんを引き離し、お嬢様と倫之介さんをくっつけるために動くことにしました。  
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