チヨの苦悶・3

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チヨの苦悶・3

 倫之介が来る5分くらい前にうたがやって来てドアをコンコンと叩いた。 「ごめんください!松尾家の女中のうたでございます!チヨさんにお話があって参りました!!」  清四朗の部屋を掃除していたあたしは、いきなりやって来たうたに『?』となりながら大声で「は――い!!」と返事をして階段を駆け下りた。  階段を駆け下りて廊下に足を踏み入れた時、あたしの後を慌てて付いて来たニワさんが、羽をバタバタとさせながら階段を下りてきたことに気付き、今にも足を滑らせて転げ落ちて来そうなニワさんに振り向いて両手を広げた。 「おお!!!ニワさん!!!置いてけぼりにしてすまなかった!!!」 「コケ――ッコッコッコッケ――ッ!!!」 『置いていくなんて酷いじゃないか――ッ!!!』と涙ながらに訴えながらニワさんはあたしの胸に飛び込んで来た。 「淋しい思いをさせてすまなかった!!!」  ニワさんを抱きしめて頬ずりをした。するとニワさんの怒りは収まり、羽を膨らませて「キュゥ~キュゥ~」と甘えた声を出して「ゴロゴロゴロ」と喉を鳴らしてよろこんだ。フワフワのニワさんとの頬ずりは気持ちが良い。 「ニワさぁ~ん」 「キュゥゥ~キュゥ~、ゴロゴロゴロ」  フワフワニワさんと頬ずりでよろこび合っていると再びコンコンとドアを叩く音がした。 「ごめんください!松尾家の女中のうたでございます!チヨさんにお話があって参りました!!」  あたしはニワさんとの頬ずりを止めて玄関に振り向いた。 「おお!!うたのことをすっかり忘れてた!!」  あたしはニワさんを抱っこしたまま返事をした。 「は――い!!あたしはここにいるぞ――!!」  ニワさんもあたしにつられて返事をした。 「コケ――ッコッコッコッケ――ッ!!」  次の瞬間、ドアがいきなりバ――ンッと開き、うたの姿が現れた。 「いきなりお邪魔して申し訳ございません」 「何の用だ?瑞代ちゃんはどうした?」 「瑞代お嬢様はカフェーへ仕事に行きました」  そう答えた後うたは何かを言いかけたが少し考えて止めたかと思うと止めずに続けて言った。 「……込み入ったお話になりますので家に上げて頂いてもよろしいでしょうか!?」 「おお!!そうだな!!どうぞ!!」  あたしがそう返事をすると、うたは「お邪魔致します」と廊下に上がって草履を揃えた。あたしはうたを客間に案内した。 「どうぞ!!」 「お邪魔致します」  頭を下げながら客間に入ったうたにニワさんがいきなり「コケ――ッ!!!」と興奮して飛びつき、うたのほっぺにあるほくろをまるでキツツキのように連打で突き始めた。 「コケ――ッコッコッコッケ――ッ!!」  驚いたうたは「ウギャ――ッ」と悲鳴をあげてニワさんを振り払おうとした。羽をバタつかせたニワさんは、うたがニワさんを振り払おうとしている手を軽い身のこなしで避けている。  あたしは慌ててニワさんを捕まえようとした。 「おお!!!ニワさん!!!それはほくろだ!!!餌ではない!!!」  そのときコンコンとドアを叩く音がした。 「こんにちは!ごめんください!」  あたしは慌てて「は――い!!!」と大声で返事をすると、ほくろをつつかれているうたのことをすっかり忘れて客間を飛び出し、廊下を走ってバ――ンと勢いよくドアを開けた。  と同時に大きくて温かいものに激突していた。 「うわっ」 「わぁ!!!」  何かにぶつかったあたしの身体は跳ね返って後ろの方へ倒れそうになり、腕をヒラヒラとさせて反り返った体勢を直そうと踏ん張ったが体勢はどんどん崩れていってこのままでは後頭部激突だと焦ったとき、背中を何かが支えてくれた。 「チヨちゃん大丈夫?」  聞き覚えのあるその声のするほうに顔を起こして見ると倫之介の姿があった。 「おおお!!!倫之介ではないか!!!」
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