色褪せて、消えてなくなれ

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「いきなりなによ〜?」 自分では精一杯取り繕ったつもりだった。けれど、奏真は全然動揺するような素振りもなく、余裕の表情でまだ真顔だった。わたしはと言うと、実際は彼からのその一言に虚を突かれたような気持ちになって、「ああ、わたしってもしかしてまだこいつのことが好きなのか……」と自分に問いかけてしまった。 「だって、“ちょっとそこでお茶しよう”なんて言うから」 「それは、久しぶりで懐かしかったからで」 「だけど、いきなりお茶って、大胆だなと」 「うぅ……」 奏真は昔から変わらず、思ったことを直球で口にする。その潔さに、わたしは惚れていたのだ。惚れて、心がきゅっとなって、彼に告白をして、高校卒業と同時に2年間付き合っていた。 奏真への気持ちはたぶん、いや十中八九わたしの方が大きかった。だって、わたしは一日に何回も好きとか愛してるとか甘くて重たい言葉を伝えないと気が済まなかったのに対し、奏真の方は「俺も」と軽く返してくれるだけだったから。ああ、でも愛の大きさって言葉だけで測れるものなのかな? もしかしたら全面的にわたしの考えが間違っているかもしれない。でも、明確に相手が自分のことを好きだって確信できるのは、そういう言葉を伝えてくれる時だとは思う。 「……まあ、そんな話は置いておいてさ。今日はなにしてたの?」 5年ぶりに再会したというのに、この5年間の出来事ではなく、「今日」のことを聞くんだ。奏真は空白の5年間に、わたしが何をしていたかなんて興味がないんだろうな。 わたしは、わたしはずっと……奏真がいま、どこで何をしているのか、誰の隣にいるのか、誰を好きになっているのか、そんなことばかりずーっと気になっていたというのに。
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