色褪せて、消えてなくなれ

1/16
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「菜乃花は、俺のことまだ好きなの?」 東京の街は、夕闇の底に沈んでいけばいくほど街を歩く人々の足取りが軽くなる。夜の街へ繰り出す若者たちであふれているからだ。わたしの地元の山陰地方では、夕闇に沈む景色とともに、人通りはどんどん少なくなっていったのに。 東京の、池袋なんていう賑やかな街に住んでいた。大学を卒業してからもう3年になる。卒業と同時に就職した大型書店がちょうどこの街に鎮座しているのだ。家賃11万円のマンションに、会社からの住宅手当を充てて6万円で住んでいる。おかげで通勤には徒歩10分という近さで便利だ。 その池袋にある、とある喫茶店でその男と対峙していた。 山陰では見たことがなかったけれど、東京にはよくあるチェーン店で、ケーキとドリンクセットが1800円もする。日本はいつからこんなにもインフレになってしまったんだろうと、去年のお正月に山陰で入ったカフェの「ケーキセット800円」を思い出して泣きそうになる。 5年ぶりに再会した同級生の坂瀬奏真(さかせそうま)は、わたしの顔をまじまじと見つめ、首を傾げていた。その顔にどこか自信がみなぎっているように見えるのは気のせいだろうか。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!