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知られてばかりでは負けたような気がして、なんとか相手の情報を仕入れようと試みた。コミュニケーション能力の高さがここで生かされるのは不満だが、強気でいくしかなかった。
「……バッグとかコートとか、パパ活で買って貰った?」
コートの話題を出した瞬間、舌打ちしてあきらか不機嫌になってカノシタを睨んだ。刺されてもおかしくなかったが、ノアは顔を前に戻した。
「ノア、そんなので貢いでもらってないから。全部自分で稼いだし。コートは、誕生日に貰った大事なコートだったんだけど。凄く大事だったんだけどっ」
「俺じゃねぇって……」
本当に気に入っていたらしく、当たりが激しい。NGワードに認定して、今後はその単語を出さないようにとカノシタは誓った。
赤信号で停まる。カノシタは街行く通行人達を眺めた。
──ああ。他は普通の生活を送っているというのに、俺はなにしてるんだろ。
今となっては普通の生活が恋しい。
ノアはバックミラーとサイドミラーを交互に見た。
「カノシタ君はなにしてる人なの?」
「急になんすか」
「ノアは教えたでしょ」
確かにそうだが、そんな経歴を教えてもらっても嫌だった。
「公務員だよ」
「へぇ。お国の下僕さんなんだ」
「下僕の下僕。北の方の地方公務員だよ」
「あー。そういう感じ。お金持ってる身なりじゃないし。そんなのだから女の子から無視されるんだよ」
「根に持つタイプだろ。お前」
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