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「ごめん、あと少しだけ。乃木は俺のものだってみんなに見せつけたい気分なんだよ」
早坂は完全に落としにきたんだな! 告白ゲームを始めて五日経ってるし、そろそろエンジンかけてゲームを攻略しようと必死なのだろう。
あれ?
緑道沿いのカフェのテラス席に、俺と同じ制服の男女がふたりで仲睦まじそうに話している。
男のほうは波田野だ。女の子は学校一可愛いと噂の羽並吐愛だ。
波田野は俺と早坂を見つけて、なぜかこっちに向かって走ってきた。
こんなところを誰にも見られたくなかったのに! と俺が早坂の手を振り解こうとしているのに、早坂は反対に握りしめる手に力を込めてきた。
「早坂っ! お前、奥手そうに見えて結構やるな」
「波田野もな」
お互い牽制し合っている。もしかしたら、波田野の攻略対象は羽並なのかもしれない。
波田野は「秒で口説けそうな女にする」と言っていたくせに、学校一攻略が難しそうな羽並を狙っているのか。
でも波田野は、放課後に攻略対象とふたりきりでカフェに行くくらいまでは進展したようだ。
「早坂、手ェ繋いでる割には今にも逃げられそうじゃん。乃木、嫌がってるぞ」
波田野に早坂と繋いだ手を見られて、居た堪れない気持ちになる。
五日でここまで早坂に許すなんてちょろい攻略対象だと思われただろうか。
「そんなことない。無理矢理じゃない。乃木から俺を誘ってきたんだから」
それは違う!
まさかゲームのためだけにこんな恥ずかしいことはしないだろうと思って嫌がらせをしただけなのに。
でもこれでわかった。
さっき手を離してくれなかったのは、早坂が波田野にマウント取りたかったからなんだ……。
「乃木から?! ヤッベェ、俺も負けてらんねぇな。じゃ! せっかく仲良くなったのに、長時間放置したら嫌われちゃうからまたな!」
波田野はサッと踵を返し、再び羽並のところへ戻っていった。
波田野と話をして、早坂はショックを受けたようだ。明らかにテンションが下がっている。自分の方が負けているとでも思ったのだろうか。
「乃木が嫌がってるなんて気づけなくてごめん。乃木から誘ってきたからつい調子に乗った。俺と手を繋ぐのが嫌なら逃げていいよ」
波田野にアピールできたから、もう手を離してもいいって思ったのか……?
でも「逃げていい」という割には、早坂は固く固く俺の手を繋いでいる。
早坂は、何を考えているんだろう……。
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